ケトン体は『飢餓時だけに生成される非常エネルギー』なのか[12]

治療薬としてのケトン体

ケトン体が,単なる代替エネルギーだけでなく,もちろん『脂肪の燃えカス』でもなく.生理活性も持つ ,しかも 心臓や腎臓には有用な作用を示すとなれば,ケトン体を治療手段として積極的に用いることは当然 期待されます.

実際 SGLT2阻害薬によって,人為的にケトン体を増加させることができるとわかったので,SGLT2阻害薬を糖尿病患者の心疾患や腎症進行の治療薬として用いる多数の臨床試験が行われました.

多数の試験結果をメタ解析したところ,ケトン体の心臓・腎臓への保護効果は一貫していました.

心血管疾患の全死亡率は,SGLT2阻害薬投与で低下していました. (OverAll ハザード比= 0.85).横軸のハザード比は対数目盛であることにご注意願います.

また腎症についても 腎症進行速度の低下など,明瞭な改善が見られました. (OverAll ハザード比= 0.62)

そこで 欧州では,SGLT2阻害薬を 糖尿病ではなくとも 心不全患者の治療薬として用いることが承認されました.

SGLT2阻害薬「ジャディアンス」が左室駆出率が低下した心不全の治療薬として欧州で承認を取得 | 糖尿病リソースガイド
心血管死のリスク減少に関するデータが添付文書に記載されたはじめての2型糖尿病治療薬に ベーリンガーインゲルハイムとイーライリリー・アンド・カンパニーは、左室駆出率が低下した症候性慢性心不全(HFrEF)の成人患者の治療薬として、欧州委員会が...

日本でも 慢性心不全治療薬として使えるよう 最近 承認されました.

SGLT2阻害薬「ジャディアンス錠」10mgが慢性心不全に対する効能・効果および用法・用量に係る承認(一部変更)を取得 | 糖尿病リソースガイド
添付文書における記載は次の通り――。効能又は効果<ジャディアンス錠10mg>慢性心不全ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る。効能又は効果に関連する注意左室駆出率の保たれた慢性心不全における本剤の有効性および安全性は確立して...

ケトン体を直接投与

上記の例は SGLT2阻害薬投与によって肝臓でのケトン体産生を促進し,血中ケトン体濃度を増やそうという方法です. これはケトン体を増加させる手段としては間接的な方法です. しかし SGLT2阻害薬は,本来糖尿病薬として血糖の排泄を促進させる薬でしたが,同時に強力な利尿性もあるので,患者が脱水 → ケトアシドーシスを起こしやすくなります. 実際にもそういう症例が相次いでいます.

第65回 日本糖尿病学会 年次学術集会
一般口演 P-67-2
 SGLT2 阻害薬内服中に生じた正常血糖および高血糖糖尿病ケトアシドーシスの臨床的特徴について
  神戸市立医療センター中央市民病院糖尿病内分泌内科藤島雄幸,他

必要なのはSGLT2阻害薬ではなくケトン体なのですから,「ケトン体そのもの」 又は 「体内で速やかにケトン体に変換される物質」を直接投与する方法も考えられます.

特に期待されるのは腎症です.多くの腎症では,これといった効果的な治療法が存在しないため,現時点では 腎移植か あるいは消極的な対症療法しかないのですが,薬剤としてのケトン体はこの状況を打破できる可能性があります.

動物実験ですが,この可能性が実際に確認されています.
糖尿病マウスでは,腎臓の糸球体の細かいヒダ細胞(=ポドサイト)が崩れてしまっていますが[写真 中],体内でケトン体に変換される 1,3-ブタンジオール(1,3-butanediol)を投与した糖尿病マウスでは[写真 下] ,正常マウス[写真 上]に近い状態が保たれました.

ケトン体は,毒物どころか救世主になるかもしれないのです.

[13]に続く

コメント

  1. ふなゆき より:

    Twitterで流れてきた情報ですが
    「腎機能障害の進行に伴って、糖新生の機能が低下する
    さらに糖新生が低下していると腎予後も悪いようです。」
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35273087/
    難しいことはよくわかりませんが腎臓は大事にしないとダメなようですね。

    • しらねのぞるば より:

      糖新生というと 肝臓のそればかりが注目されますが,実際は腎臓も糖新生を行っていますね.しかも肝臓と異なり,腎臓での糖新生はインスリンやグルカゴンの影響をあまり受けないようです.

      https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscc1971b/7/2/7_101/_pdf

      糖尿病と腎臓との関係は ものすごく複雑で,まだまだ未知のことは多いのではないかと思います.

  2. tk より:

    マウスの腎臓の比較写真をみて、
    私のケトン食の効果があった理由が明確に確認でき、
    私の選択が正しかったことに自信が持てました

    経過
    2年半前(80歳)の血液検査で、
    腎臓病ステージ3b、前期糖尿病、動脈硬化による高血圧が指摘されました

    すぐに各種論文・文献・医師のブログを調査し、日本の専門学会の治療指針では悪化を防げないことに気が付きました

    3ヶ月後に、自分が主治医になってn=1のテストをはじめました
    1日にタンパク質50g、糖質50g、脂質100gのケトン食に切り替えました
    現在、腎臓はステージ3aになっています
    当然、糖尿病の検査値は問題ないレベルです

    腎臓病は長期低落して透析になるというのが日本の腎臓内科医の常識です
    これに反してわずかながらでも回復した理由は、
    死にかけた腎臓の細胞が、
    ケトン体のエネルギーを受け取って回復したのだろう、
    と推定していました

    日本では、腎臓の治療にケトン体を使う方法は、まだ、マウスの実験レベルです
    自分の命は自分で守るつもりで実験して結果がでました

    市立病院の腎臓内科医は、初回診察時に、私がケトン食を試すことは、
    自分の立場では賛成できない、と発言しました
    今年1月の2回目の診察時には、検査結果を見て、
    今の食事をそのまま続けてください、
    となりました
    この医師は医大の講師も兼任しているので、
    普通の開業医のような単細胞ではないようです