インスリン分泌の『なぜ?』を考える13

糖の流れ

川の流れのように/美空ひばり
(C) 日本コロムビア

教科書などには;

食物中の炭水化物,脂質,たんぱく質は,胃液,膵液などによって消化され,腸管で糖(ほとんどがブドウ糖),脂肪酸,およびアミノ酸などに分解されて吸収されます.食事により血糖値が上昇すると膵臓からインスリンが分泌されます

とあるので,あたかも小腸で吸収されたグルコース(ブドウ糖)がそのまま膵臓に到達し,即座にかつ自動的にβ細胞からインスリンが分泌されるかのような印象を受けますが,実際はそうではありません. この図のように;

消化管で吸収された栄養分は,まずすべて門脈を通じて肝臓に集められるのです. 門脈は小腸~大腸に広く分布した毛細血管が集合して 最終的に1本の血管になったもので,直径約1cmと 大動脈・大静脈に次いで太い血管です.

肝臓は届いた栄養分のすべてを仕分けして,適切に処理してから 肝静脈を通じて 全身に配給します. ブドウ糖については,肝臓に届いたすべてを送り出しているのではなくて,肝臓でまず一部をピンハネし(=糖取り込み),グリコーゲンの原料として使います. 残ったブドウ糖が全身に配給されるわけです. したがって,消化・吸収されたブドウ糖が全量 送り出されることはありません.

つまり,食事中のブドウ糖に正確に比例した量が膵臓に届くわけではないことが,この図からもわかります.

仮にですが,もしも食物に糖質が含まれていても,その量が少なくて 肝臓が全部横取りしてしまったら,膵臓に届く血糖には変化がないことになります.

インクレチン

では,肝臓からブドウ糖が届くまで膵臓は遊んでいているかといえば,そうでもありません.

小腸に食物が入ってくると,小腸からはインクレチンホルモンが分泌されます. 小腸上部(=胃に近い方)からは GIP(=Gastric inhibitory Peptide)ホルモンが,そして 小腸下部(=大腸に近い方)からはGLP-1(=glucagon-like peptide-1)ホルモンが分泌され,これらが膵臓β細胞からのインスリン分泌を促進します.

注目すべきなのは,インクレチン ホルモンは,小腸に『何か』が入ってくれば分泌されることです. つまり物理的に小腸を刺激さえすれば,たとえカロリーゼロ,糖質ゼロのコンニャクでも分泌されるのです.もちろん食物でも分泌されます.しかしそれは糖質である必要はなく,肉でも野菜でもチーズでも何でもいいのです.

一時期注目された『ベジファースト』による食後血糖値上昇の抑制は,このインクレチンによる「もうすぐ食物によって血糖値が上がりますよ」という【予告効果】なのではないかと言われています.


食物消化・吸収が,直ちに 膵臓からのインスリン分泌となるわけではないとわかりました.

では,膵臓に血糖=ブドウ糖が届いた後,膵臓はどこをどうやってインスリンを分泌するのでしょうか.

[14]に続く

コメント

  1. 西村 典彦 より:

    単糖類に代謝されて小腸から吸収された後、血糖値に反映するまでには下記のような経路が考えられますが、

    (1)小腸から直接、大循環に回る
    (2)門脈経由で肝臓に運ばれるもののそこでの代謝をスルーして大循環に回る
    (3)肝臓で(グリコーゲン等に?)代謝され、代わりに糖新生によって代替的に大循環に回る

    等の経路が考えられます(間違っているかもしれません)が、それぞれの割合はどのようになっているのでしょう。

    アルコール摂取で血糖値の上昇が抑えられることは多くの方(多くの酒飲み)が経験していると思いますが、アルコール代謝に忙しい肝臓が糖新生を抑制せざるを得ないためではないかと言う事が言われています。
    しかし、小腸から直接、大循環に回るものが多いとすれば、この説明は成り立ちません。江部先生からはこの割合は50%と回答を頂いたことがあります。
    また、肝臓には運ばれるものの、スルーする場合もこの説明は成り立ちません。

    したがって、(1)~(3)の内、血糖値に反映しているものの大半が糖新生により代替される(3)にのみでアルコールによる血糖上昇の抑制は成り立つと思うのですが、果たしてそうなのでしょうか。もし、そうだとすると血糖値とは、糖新生の結果であり、糖摂取の直接の結果ではないことになります。糖を食べると血糖値が上がるのは、糖の摂取量に応じて糖新生が亢進するためと考えなければならなくなります。

    血糖値とは一体、何が反映されているのでしょう。

    私は朝食、昼食に比べて、明らかに夕食後の血糖値は上がりませんが、それは夕食(セカンドミールならぬサードミール効果?)だからなのかアルコール(ほぼ毎日)のためなのか区別がつきません。
    飲酒の習慣がない方の血糖値はどうなっているのでしょう。

    >『何か』が入ってくれば分泌される

    もしかしたら、ほとんど入ってこなくても例えば糖質ゼロのガムをかむだけでも分泌されるのではないでしょうか。
    食事前にガムをかむと食欲抑制効果がある事はよく言われていますが、咀嚼による刺激でも分泌されたりしないでしょうか。

    • しらねのぞるば より:

      >(1)小腸から直接、大循環に回る

      ???
      ほとんどの栄養素の吸収は,一部を除き(※)すべて 門脈経由でまず肝臓に到達し,それから全身循環に回るとされています.

      『栄養に関する基礎知識』国立循環器病研究センター
      http://www.ncvc.go.jp/hospital/pub/knowledge/diet/diet01.html

      これは,そうでないと 万一 有毒物・食中毒の原因物質が食物に含まれていたら,肝臓での解毒が行われないいからです.
      ですから,食物経由の糖質はすべて肝臓を経由するはずです.

      (※)
      ただし,ミセル化された脂質だけはリンパ液に溶け込んで全身循環します.
      『脂肪はどのように消化・吸収される?』 日本食肉消費総合センター
      http://www.jmi.or.jp/qanda/bunrui3/q_054.html

      アルコール摂取中に糖新生が停止するので,糖質を含まないアルコールだけを飲めば 血糖値は下がる. これは納得できます.
      ところが私も何度か実験したのですが,少量の糖質(おかきなど)とウイスキーという組み合わせでも血糖値は下がります.

      糖新生は止まっているとしても,おかきの糖質は血糖値になっていないわけで,いったいどこへ消えたのか?
      多分 この時,肝臓の糖新生はアルコールの作用で止まっていても,糖取り込みは通常通りなのだろうと思っています.
      そして 少量の糖質であれば,肝臓のピンハネですべて肝臓に収まってしまったのでしょう.

  2. 西村 典彦 より:

    >肝臓での解毒が行われない

    摂取した糖が抹消に届くまでの経路について、自問自答のような文章になってしまいますが。。。

    私も、解毒と言う意味で考えると(1)の腸からダイレクトも(2)のスルーする事もないと考えるのが自然だと思います。

    門脈から肝臓に流入したものは何らかの形で代謝され、新たに肝臓で合成された安全なものだけを大循環に回すことによって解毒しているのだろうと考えられます。
    要するに摂取した糖は、門脈経由で肝臓に運ばれ、一旦代謝され、糖新生によって再合成された糖だけが、大循環に回るのではないかと考えています。

    しかし、例えば果糖が血糖値を上げにくい理由として、出典は失念してしまいましたが、血糖測定とはブドウ糖を測定した結果であり、果糖には反応しないからだと述べたものを見たことがあります。つまり果糖は半分はブドウ糖に代謝されるが、半分は果糖のまま抹消まで届いていると言う前提です。小腸からダイレクトなのか、肝臓の代謝をスルーしたと言う前提なのかはわかりませんが、どちらにしても肝臓の代謝を経ずに大循環に回っている果糖があると言う前提で述べられたものと考えられます。

    >少量の糖質(おかきなど)とウイスキーという組み合わせでも血糖値は下がります.

    私も先週金曜日の夕食は糖質5g程度ですが、ビール1缶でベースより下がっています。
    5gの糖質はアルコールの代謝に利用されたのか、あるいはそもそも糖が直接(代謝をスルーして)大循環に回っているのではないため、糖新生がストップした結果、血糖値が下がったのでしょうか。

    結局、血糖値とは、代謝経路上の何を測定していることになっているのでしょう。以前より、この疑問がなかなか解決しません。

    • しらねのぞるば より:

      肝臓では,実に多くの作用が行われていますが,体内・体外からの不要物・有害物を分解・無害化する『環境センター』の役割が第一優先でしょう. そして それに次いで優先順位の高い動作が,『絶食・飢餓に備えてグリコーゲンを貯蓄する』だと思っています.したがって消化管から届いた種々の栄養素をまず肝臓が独占して,貯蓄を行い,余剰分を全身に循環させているのでしょう. おそらく原人時代には その余剰分などほとんどなくて,血糖値は常時100以下だった,つまり当時は『追加インスリン分泌』は,年に何回あるかという程度の稀な事象だったのではないかと思っています.

      したがって,肝静脈に含まれる血糖は,大循環にブドウ糖を補給するためではなくて,門脈から 肝臓の貯蔵速度を上回る糖流入があったので『あふれ出た』だけではないでしょうか.

  3. 西村 典彦 より:

    >『あふれ出た』だけ

    基本的にはそうだと私も思います。ただ、単純にあふれ出ただけだと解毒作用など重要な機能が働かないまま大循環に回ってしまいます。
    それと、自分のアルコール摂取下での血糖上昇抑制を毎晩見ていると、あふれ出るのならもっと上昇してもいいのではないかと思えることが多々あります。
    要するに5g程度の糖質ではきっとあふれ出ることはなく、いつでも血糖値はほとんど変化しません。
    しかし、朝食においてはしっかりと血糖値が上昇する15g程度の糖質量でもアルコール摂取時(夕食)は全く上昇しないことがしばしばあるので、血糖値に反映するグルコースは、肝臓での代謝後(糖新生やグリコーゲン由来)のものが間接的に循環しているのではないかと予想しています。
    あふれた糖が肝臓での代謝を経ずに直接循環するのなら肝臓がアルコール代謝で忙しくても関係なく、あふれだして血糖値を上げるだろうと思うのです。
    では、血糖値に反映しなかった糖はどうなるのかですが、肝臓で滞留した結果、脂肪になって肝臓にたまるのではないかと。。。アルコール性脂肪肝

    以前からこの、「直接的なのか間接的」なのか、「血糖値は直接は何に由来しているのか」が知りたいのですが、なかなか答えにたどり着けません。
    そもそも現時点で答えなどないのかもしれませんが。

    • しらねのぞるば より:

      >ただ、単純にあふれ出ただけだと解毒作用など重要な機能が働かない

      基本的には肝臓は,解毒に次いで,糖取り込みを優先していると思います. ただそれは,どんな糖質量でも無制限に取り込むというのは不可能で,そこには自ずから処理能力の限界もあるでしょう.
      したがって,通常の水量なら完全に食い止める砂防ダムでも,鉄砲水がくれば乗り越えてしまうように,門脈から処理能力をはるかに超える速度で糖質が流入してきたら,あふれた分はそのまま静脈経由で全身に回っていくくと思います.
      ただ この場合でも 第二の安全弁として,多すぎる血糖は 尿糖として捨てるようになっているのでしょう.

  4. 西村 典彦 より:

    >門脈から処理能力をはるかに超える速度で糖質が流入してきたら,あふれた分はそのまま静脈経由で全身に回っていく

    この量を超えると「過剰摂取」という事になりそうですね。
    そして、これ以下なら、門脈から流入した糖は肝臓で何らかの代謝後に、間接的(糖新生、肝グリコーゲン由来等)な糖が全身に回っていくと考えられそうですね。そして、その量が自然な摂取量と言えそうです。そしてその量の糖を処理するのに必要なインスリンが自然なインスリン分泌量となるのでしょう。
    江部先生の50%はスルーしていると言うのが正しければ、現代人は糖質摂取量の50%は過剰摂取と考えられます。半分に減量すれば、適正上限と言う事でしょう。そして、その量は山田医師が提唱するロカボの糖質量(130g/日)ともおよそ一致します。
    ただし、健常者についてはと言う条件が付きますが。

    • しらねのぞるば より:

      摂取した糖質は 全量を肝臓や各臓器が取り込み,血液中循環には回らない,そして 必要な血糖はすべて肝臓のグリコーゲン分解から供給するというのが,おそらく人体の『設計仕様』なのでしょう.過剰分は尿糖に排泄するという仕組みも これを裏付けています.人体のメタボリズムは ほとんどすべて飢餓に備えるようになっていますが,摂取した糖質を体外に捨てるようになっているというのは,やはり過度な糖質摂取は有害という証明でしょうね.

      ですので,耐糖能と糖質摂取量をバランスさせることは重要だと思っています.