インスリン分泌の『なぜ?』を考える[12までの補足] オーバーシュートについて

納先生のHPに掲載されている糖負荷試験26人のデータは,その血糖値とインスリン量とを正規化して[★],横軸=血糖値,縦軸=インスリン量とすると,おおむね3種類のLoopパターンになることを,この記事で書きました.

[★]正規化する:
個々のデータは血糖値やインスリン量の絶対値が人により異なるので,血糖値 および インスリンの最大値を100,最小値を0に揃えること.こうすることで,すべての人のデータのパターンだけを比較できます.

その記事中でこう書きましたが,

これら以外により複雑な形の人もいますが,それは 後日述べるOverShootによる波形の乱れではないかと考えています

この『オーバーシュート OverShootによる波形の乱れ』とは何を指しているのかという補足です.

応答の早い人/ニブい人

現実の人間社会では,運動の得意な人がいる一方で,ニブい人がいます.世の中には 体育の時間に,かけっこはクラス最下位,しかも女子を含めて最下位の男子だっているのです[注:ぞるばのことです].
同様に電子回路でも,応答=レスポンスのいいもの/遅いものがあります.

このようにゆっくりとした入力であれば,きっちりと入力信号通りに出力できるのですが,

突然 ピクンと入力信号が急変した際に,理想的には 出力も追従すべきところを,

このように入力の急変に追い付けずに,モッサリとした応答しかできないものもあります.

しかも入力信号に追い付けなかっただけでなく,焦るあまり『勇み足』までしてしまう. これがオーバーシュート Overshootです.こういう応答は『不足制動過度応答』と呼ばれますが,まさに名前の通りです.車に例えれば,踏んでもすぐには加速しないアクセルと,踏み込んでもすぐには効いてこないブレーキのようなものです.
オーバーシュートが起こると,その後もギクシャクした減衰振動が続き,かなりの時間が経ってから,やっと あるべき値に落ち着きます.

似ていませんか

そこで,納先生のデータに戻って考えると,No.22の20代女性の糖負荷試験グラフはこの通りです. 大きく血糖値が上下していますが,それはインスリンの増減とは対応していません.

ループ図はこの通りで,直線でも楕円でもなく大きな『凹み』があります.

おそらく,この『凹み』(赤のハッチング部分)は,上記で述べた『オーバーシュート』が発生して,全体の形が楕円(緑 点線)から大きくずれたのでしょう.

血糖値が上がったのであわててインスリンを出したが,タイミングが遅かったので,血糖値が下がりすぎた,そこでインスリンを減らしたら,また血糖値が上がり…という『振動』を繰り返したものと思われます.

すべては入力信号に対する出力応答の『位相ズレ』から発生した現象だと解釈できます.

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