DPP-4阻害薬は『弱い』薬なのか_1

インクレチン

食物が消化管に入ってくると,直ちに分泌されるインクレチン(=GIPとGLP-1)は,膵臓β細胞のインスリン分泌を促進します.

 この特性から,特に食後血糖値が急上昇しやすい インスリン分泌の[不全]/[遅れ]タイプの糖尿病の人(=その多くは非肥満型の糖尿病の人)にとっては,インクレチン作用を増強することがもっとも有効な手段となります.インスリンの『出し遅れ』は,この糖負荷試験結果の通り,血糖値とインスリンとのピークがずれてしまうので,食後高血糖と食後低血糖を同時に招いてしまいます.

(C) 鹿児島大学 納 光弘 元教授

たとえば日本糖尿病学会が盛んに推奨する ベジファーストや『おかず先食べ』などは,血糖値を上げる炭水化物の前にまずインクレチンを出させて,血糖値上昇に間に合わせようという作戦です.

しかし,せっかくインクレチンが分泌されても,それらは 体内に広く存在している DPP-4酵素によって,速やかに(半減期は2分程度! つまり ほんの数分で)バッサリと分解されてしまいます.

インクレチン薬剤

これを何とかする方法の一つがDPP-4阻害剤(以下 DPP-4i)であり,もう一つが GLP-1受容体作動薬(以下 GLP-1RA)です.

この別館記事 にまとめたように,DPP-4iは GIP,GLP-1を分解しようとするDPP-4酵素を妨害して,これらインクレチンの存在寿命を長くし,見かけ上 インクレチンがたくさん分泌されたのと同じ効果を発揮します.

一方 GLP1-RAは,そんなまどろこしい方法ではなくて.GLP-1とよく似た構造だが,DPP-4では分解されない化合物を使って,あたかも多量のGLP-1がドッと分泌されたかのように膵臓を錯覚させる方法です.

なので,DPP-4iのインクレチン効果は『生理的効果』,GLP-1RAのそれは『薬理的効果』と呼ばれています.

どういうことかと言えば,DPP-4iは分泌したインクレチンができるだけ分解されないようにする薬ではありますが,最大限の効果が得られたとしても,その人が分泌することができたインクレチンの量が上限です. つまりうまくいっても損失がゼロだというだけです.もともとインクレチンの分泌量が少ない人であれば,DPP-4iで助太刀しても おのずから限界があります.

一方 GLP-1RAは,外部からインクレチンと同じ作用の化学物質を投入するのですから,生理的に分泌されるインクレチンよりもはるかに大量にすることができます. 本人が分泌しているインクレチンが多かろうが少なかろうが 無関係にできるのです.

Holst 2008 Fig.3

したがって,一般に DPP-4iGLP-1RAよりも,上品な言い方では『穏やかな』効果, はっきり言えば『弱い』薬と評価されています.

弱いはずだが

ところがこの図の通り;

Bouchi 2021

2014年度後半~2017年度に健康保険による治療で,糖尿病薬を処方された113万人の分類結果です.

日本で 現在もっとも使われている糖尿病薬は DPP-4iなのです. 最近では肥満の人には SGLT2阻害薬(SGLT2i)の方が有効だということで,わずかに 処方が減っていますが,それでも圧倒的に高い使用頻度です.

『弱い』薬なのに,なぜこんなに使われているのでしょうか? 『安いから』が理由ではありません. 薬価だけをみれば,シエア2位の『ビグアナイド』(=メトホルミン)の方が はるかに安いのですから.

[続く]

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