他人の関係

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『日本糖尿病学会の食事療法ガイドライン改訂はどうなった 』 の記事につき 「問い合わせ」経由でご質問をいただきました

日本糖尿病学会と厚労省で「適正カロリー」が違う

この記事では,デスクワーク主体で身長170cmの40歳の男性について,日本糖尿病学会発行の「糖尿病診療ガイドライン2016」に記載の「糖尿病患者の適正カロリー」と,厚労省 「日本人の食事摂取基準 2020」記載の 総消費カロリーに大きな差があることを示しました.なお,厚労省の同資料では,

体格・年齢・ライフスタイルが同じであれば,
健常人と糖尿病患者とで消費カロリーに差はない

としています.

ここで,問題なのは 厚労省の「日本人の食事摂取基準 2020」では,DLW法による正確な実測値 を元にしているのですが,
日本糖尿病学会の「適正カロリー」には,何ら根拠が示されていない点です. 「糖尿病診療ガイドライン2016」のp.41の記載で;

糖尿病におけるBMIと総死亡率との関係もV字型を示すことが知られており,アジア人の検討では,中国人,日本人いずれにおいてもBMI 20~25で総死亡率が最も低い.したがって,目標BMIは22を目安としてよい.

と,ここまでは 根拠とする文献が示されています.

ところが,そのあとに続けて;

総エネルギー摂取算定量の目安[軽い労作の場合]:
BMI=22に対応する体重(標準体重)× 身体活動量(25~30)

この【身体活動量(25~30)】が軽い労作の人に適用されるという根拠が示されていないのです.

ご質問へのお答え

いただいたご質問は;

厚労省と日本糖尿病学会とは 違う組織なのだから,
それぞれの考えで推奨カロリーは違っていてもいいんじゃないですか?

というものでした. しかし,これをご覧ください.

本籍地や生年月日は大嘘です,念のため

そうなのです,管理栄養士の資格認定は厚労省が行うのです. 日本糖尿病学会ではありません. 厚労省が実測データを基にして,専門家が検討したうえで策定した「日本人の食事摂取基準 2020」を決めたのに,それを真っ向から否定する「糖尿病診療ガイドライン2016」を前提として,管理栄養士国家試験問題が作れるでしょうか?

仮に「学会は学会,厚労省は厚労省. だから厚労省の資料を正解として問題を出す」となったら,受験する学生が気の毒です. いったい どちらを信じて正解を選べばいいのでしょうか?

もちろん 次回の管理栄養士国家試験(2020年3月1日予定)で,日本人の適正な摂取カロリーに関する問題を一切出題しないという選択はあるでしょうが,それは本末転倒だと思います.

以上の通り,日本糖尿病学会は早急に厚労省のガイドラインに沿った 『糖尿病診療ガイドライン』を出さねばならないのですが,北里大学病院 山田悟先生はこう嘆いています

日本糖尿病学会の『糖尿病診療ガイドライン』はおよそ3年に一度改訂されており、本来、今年(2019年)は『糖尿病診療ガイドライン2019』が刊行される予定の年である。通常は毎年5月に開催される年次学術集会に合わせて刊行されるので、既に世に出ているはずあった。しかし、食事療法についての内容が定め切れないとのことで5月の刊行が見送られ、9月末までずれ込む見通しである。今まさに、日本における糖尿病食事療法の転換点が到来しているのである(なお、私自身はガイドラインの作成委員ではなく、その改訂内容を9月4日時点で全く知らない)。
【中略】
しかし、なお因習にとらわれ、エネルギー制限食を推奨し続けたいと欲する人たちもいるようであり、それがガイドラインの刊行の遅延につながっている(と思われる)。

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こうなると 今後の推移がむしろ楽しみになってきました.

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