DPP-4阻害薬は『弱い』薬なのか_6

重篤低血糖

SU剤を服用していた患者にDPP-4阻害剤を追加投与したら,低血糖,それも長時間意識を失うほどの重篤な低血糖に至る事例が複数件 発生しました(詳細は前回記事). 幸いにも死者は出ませんでしたが,そうなっていてもおかしくないほどの危険な事態でした.

もちろんSU剤とDPP-4阻害薬を同時に服用した人の全員に こんなことが起こったわけではありません.ごく一部の人でこの例があっただけです.SU剤とDPP-4阻害薬を同時に服用していても,ほとんどの人は大丈夫でした. そのことは 第54回日本糖尿病学会で,SU剤にDPP-4阻害薬を追加したら HbA1cが約1%下がったという報告が相次いだことからもわかります.とは言え,その発生率は 相対的に高かったのです.

しかし衝撃的だったのは,長年SU剤投与を続け,さすがにこれ以上SU剤を増やすわけにはいかないという程の大量のSU剤投与にもかかわらず,ジリジリとHbA1cが上昇してきた患者,すなわち『SU剤の二次無効』になっていた患者にDPP-4阻害薬を追加投与したら,突然低血糖が,それも長時間 意識が戻らないほどの重篤低血糖が発生したことです. 起こるはずがないことが起こったのです.

(C) めご さん

なぜ『起こるはずがない』なのか?

それは 従来の『SU剤の二次無効』という現象は,こう説明されていたからです.

Q.155 糖尿病の薬は、飲んでいるとそのうち効かなくなるそうですが・・・
 SU薬には「二次無効」と呼ばれ、最初のうちは効いていた薬がしばらくして効かなくなってくる現象があります。膵臓のインスリン分泌力が低下してくるために起こるものと考えられています。ただし、二次無効と思われても、実際は食事療法や運動療法がいい加減になってきた結果であることがあります。

糖尿病ネットワーク

食事療法・運動療法がきちんとできていても次第にSU薬の効果が弱まってくることがあります。
これを二次無効といいますが、長期にわたって高血糖状態が継続すると、β細胞の働きが弱ってしまい、インスリンを分泌する働きが低下すると考えられています。
この場合は、他の薬剤への切り替えや他の薬剤との併用、またはインスリン療法への変更が考慮されます。

サノフィ株式会社 患者向け糖尿病情報サイト DMTOWN

つまり,長年SU剤を服用していて,しかもその服用量を増やしてきたのに,それでもHbA1cが上がってくるのは,長年のSU剤による刺激によって膵臓β細胞が疲れ果ててインスリン分泌能力が枯渇したのだと考えられてきたのです.

文献では こう解説されていました.

Takahashi 2007

したがって,いくらDPP-4阻害薬にインスリン分泌増加作用があるとはいっても,「枯渇した膵臓」からインスリンが大量に出て 意識を失うほどの低血糖になるーーそんなことは絶対にありえないと考えられてきたのです.だからこそ,DPP-4阻害薬が発売された直後,多くの病院では SU剤を長期服用している患者にも投与して大丈夫と判断していたのです.

ところが その「ありえないこと」が起こりました. だとすれば,従来の解釈のどこかが間違っていたことになります.

[続く]

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