加齢と糖尿病[6] ドンブリ勘定をやめてみたら

ここまでのところで

加齢はテロメア長を短くし
循環器系疾患では更にその短縮を加速する

ここまでは明確でした.しかし

糖尿病とテロメア長との関係は はっきりしない

いかにもこれは不自然です.

このモヤモヤを解いてくれる報告がありました.

4つの2型糖尿病

『2型糖尿病』という単一の病気は存在せず,実は 4種のことなる糖尿病をドンブリ勘定でひっくるめて『2型糖尿病』と呼んでいるにすぎない,というAhlqvist博士の指摘は斬新でした .博士の提案する4つの2型糖尿病(SAIDは ほぼ従来の1型糖尿病);

はそれぞれ,病態も将来の合併症リスクもまるで異なっていたからです. これらを全部 ごった煮にしてしまっているから『2型糖尿病は複雑で多様な病気だ』ということになっていたにすぎないのです.

コレラと赤痢とノロウイルスと盲腸炎を,まとめて『腹痛症』という1つの病気と考えたら,混乱するのは当たり前でしょう.それと同じです.

Ahlqvist分類で考えてみると

そこで,4つの2型糖尿病を区別して テロメア長を検討した文献がこれです.

この報告では,まず『2型糖尿病』と診断されている患者を,Ahlqvist博士の data-driven cluster分析の手法にしたがって,4種に分類しています.その結果は下記の通りでした.

全部で246人ですが,4種の糖尿病の特徴がよく表れています.

  • [1] MARD(軽度加齢性糖尿病)はもっとも平均年齢が高い
  • [2] MOD(軽度肥満性糖尿病)はもっともBMIが高い
  • [3] SIRD(重度インスリン抵抗性糖尿病)は 4種中,もっとも 平均HbA1cが低いのに,
  • [4] それでいて,SIRDは,飛びぬけたインスリン分泌能(HOMA-β)と,それを帳消しにする 強烈なインスリン抵抗性(HOMA-IR)を示す

そして,4種それぞれについてのテロメア長です.

MARDの平均テロメア長は,もっとも短いのですが(上図 左), MARDとそれ以外(MODSIDDSIRD)の2組に分けて比較すると,MARDだけが テロメア長が有意に短い(上図 右)ことがわかります.
これで謎が解けました.

  • 糖尿病だからテロメアが短くなるのか,
  • テロメアが短いから糖尿病になるのか

この2つの疑問に対して,この報告は両方とも答えを出しています.

  • MARD以外では テロメア長は短くなっていないのだから,テロメアの短縮が糖尿病発症の原因ではない
  • そしてMARDだけがテロメア長が短いのだから,糖尿病の内で MARDだけがテロメア長を短くする

さらに 糖尿病とテロメア長との関係を調べた以前の文献で,明確な答えを出せなかった理由も説明できます.

MARDSIDDSIRDMODも,それら全部をひっくるめて『2型糖尿病』として,それを正常人のテロメア長と比較したために,MARDだけに存在する特徴が埋もれてしまっていたのです.

[7]に続く

コメント

  1. highbloodglucose より:

    >糖尿病の内で MARDだけがテロメア長を短くする

    MARD群は平均年齢が高いから、他の群よりテロメア長が短くなるのでは?と一瞬思ったけど、SIRD群とは年齢がそれほど違わないんですね。

    ただ、「MARDだけがテロメア長を短くする」とまで言えるのかは疑問かなぁ。「MARDだけテロメア長が短かった」とは言えるけれど。
    つまり、「(他の群はテロメア以外の原因で糖尿病を発症しているが)テロメアの短縮が糖尿病発症の原因となったのがMARDである」とも言えるんじゃないでしょうか。

    ところで、基本的な質問!
    テロメア長は、何の細胞を使って調べているのですか? 論文で調べている細胞のテロメア長と、β細胞のテロメア長は同じと見なしていいのでしょうか?

    • しらねのぞるば より:

      >MARDだけがテロメア長を短くする」とまで言えるのかは疑問

      そうです.MARDに限らず,すべての4typeで 同年代の正常人のテロメアと比較すべきなのです. 他の文献では 中国人の年代別平均的テロメア長が報告されているようなので それを見よということなのかもしれませんが.

      >何の細胞を使って

      人間の場合は,ほとんどすべて白血球細胞です.膵β細胞のテロメアは,膵摘出か死後剖検,いずれにせよ非正常状態のデータしか得られませんから.