DPP-4阻害薬は『弱い』薬なのか_3

実際に使ってみた

2009年5月 第52回 日本糖尿病学会では,糖尿病の新薬 DPP-4阻害薬が華々しく紹介されましたが,その2年後 2011年5月の第54回 日本糖尿病学会では 早速DPP-4阻害薬を実際に使ってみた各地の病院からの症例報告が相次ぎました.

2年後になったのは,実際にDPP-4阻害薬が発売されたのは 2009年12月だったからです. 発売後直ちに実際の投薬を始めたとしても,翌年 2010年5月の学会発表には,さすがに時間不足で間に合わなかったからです(そもそも2010年5月の学会発表は前年の2009年11月に締め切られています).

第54回 日本糖尿病学会での症例報告

この学会での DPP-4阻害薬 投与症例報告は,J-Stage の学会誌『糖尿病』第54巻抄録集に掲載されています.

1日目口演[PDF]

1日目ポスター[PDF]

2日目口演[PDF]

2日目ポスター[PDF]

3日目口演[PDF]

3日目ポスター[PDF]

一般口演とポスター発表で,全部で137件の報告がありました.たった一種の薬でこれだけ多数の報告があったのは,それまでの学会史上初めてでしょう.
これらは臨床試験ではなく実際の治療症例なので,投与条件や Baselineなどは統一されていません.それでも各症例の対象患者を合計すると 9,822人の2型糖尿病患者にDPP-4阻害薬が投与されています.これほどの規模の観察研究だととらえれば,実に貴重な報告です.

注目のHbA1cを下げる効果はこうなりました.

(当時のHbA1cは JDS値表記でしたので,すべて 現在のNGSP値に換算しています)

第54回日本糖尿病学会の口演・ポスター発表を集計

抄録なので,各症例報告の詳細は不明ですが,投与前のHbA1cと投与後(ほとんどの報告では投与開始後3ヶ月後)のHbA1cとが記載されていたものをプロットしてみました. ご覧の通り 非常にHbA1cが低下した例,あまり下がらなかった例,そして稀ですが 逆にHbA1cが上昇してしまった例が混在しています.

対象患者数で加重平均を算出した結果が 赤い太線ですが,投与前には平均で HbA1c=8.19%であったのが,投与後で 7.25%と,ほぼ1%ほど低下しています. 臨床試験では 条件を揃えた『優秀な患者群』で調べますが,年齢も罹患履歴も投薬履歴もまちまちな実際の多様な患者に投与しても,やはりDPP-4阻害薬はHbA1cを下げる効果があることが示されました. つまり下馬評通りの実力が示された....と言いたいところなのですが;

単独投与例はほとんどなかった

上記の抄録PDFをお読みたいだければわかる通り,これら症例報告のほとんどは,DPP-4阻害薬だけを単独に投与したものではありませんでした.それまでの投薬は変えずにDPP-4阻害薬を追加投与した(又は それまでの投薬を一部減量して DPP-4阻害薬を追加した)というものがほとんどだったのです. DPP-4阻害薬の効果を調べたいのなら,それまでの薬を全部やめてDPP-4阻害薬だけの投薬に切り替えるのが当然なのですが,医師たちはなぜそうしなかったのでしょうか?

[続く]

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