【続】肝機能指標と糖尿病[6]統計検出力

肝機能が正常値範囲内であっても,高めの場合には糖尿病発症リスクが高い

この久山町研究の結果は 衝撃的でした.

たしかに肝機能指標の正常値は,肝炎や脂肪肝などのデータから定められたものであって,糖尿病との関連で決定したものではありませんから,『肝機能の正常値が糖尿病リスクの有無を保証するわけではない』のは 当然なのですが,それにしても 境界値(Cut-Off)が低いのでは 心穏やかに過ごせません

統計力が弱いのではないか

ただし,久山町研究のこの結果が発表されると,『統計検出力(Power)が弱いのではないか』という指摘は出されました. それは前回も出した,このROC曲線で

ALT=13 Cut-Offの場合での 感度(Sensitivity)=63.4と 特異度(Specifity)=65.9 というのは,決して高いとは言えないからです.

PCR検査だったら

感度=63.4と 特異度=65.9 という数値が,仮に いまはやりの新型コロナのPCR検査だったらどうでしょうか?

感度=63.4ということは,『コロナ感染者を100人検査したら,63人しか陽性と判定できない』ということです.

ウイルス イラスト (C) Kazoo さん

特異度=65.9 ということは,『健康でコロナに感染していない100人を調べたら,34人(=100-65.9)を陽性と判定してしまう』となることを意味します.

もしもPCR検査がこんな感度・特異度だったら テレビのワイドショーは大盛り上がりになるでしょう.
(私は 実際のPCR検査は,どちらもほぼ100%と思っています)

つまり久山町研究で出されたROCの感度・特異度は,実用的な判断指標として用いるには低すぎたのです.

サイズの限界

しかし,これは やむをえないでしょう. 糖尿病になっていない成人1,800人を追跡し,それを性別 及び 肝機能指標で四分位に分ければ,全部で8群に分けることになるので,各分位の人数はたかだか200人ほどになってしまいます. これに日本人の平均的な糖尿病発症率を掛ければ,発症者の数がさらに小さくなってしまいます. これでは各群で ほんの数人 発症者の数が変動しただけで,結論が変わってしまいます.

この対象人数では 統計処理を行うには少なすぎた,つまり『統計的検出力』(Power)が小さいのです.

少人数の集団(=人口 8,000人の久山町)を対象にしているが,その分 もれなく緻密に検査できるという久山町研究のコンセプト上,これはいかんともしがたいところです.

[7]に続く

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