江部先生のブログでもとりあげていただきましたが ,次回の学会 では,日本糖尿病学会の診療ガイドラインが改訂され,食事療法の方針が変わるのではないかと予想(期待)しています.
ガイドラインの改訂は全国の医師に影響します
糖尿病に限らず,学会が制定した各種の疾病診療ガイドラインが,いかに現場の医師を束縛しているのか,というテーマは別の記事でとりあげるつもりですが,学会が定めたガイドラインは,法定文書ではないにもかかわらず,全国の病院・開業医の診断に影響します.このガイドラインに従わないわけにはいかないのです.
学会の内容は現時点で未発表ですが
既にプログラム だけは公開されています.特に注目されるのは,毎回 学会で行われる 教育講演(=専門医更新 指定講演)です.糖尿病専門医を名乗り続けるためには,このような教育講演を受講して所用単位を取得することが義務付けられているからです. もしも食事療法について何らかの変更が行われるのならば,当然 新ガイドラインの改訂ポイントをこの教育講演で詳しく説明するはずです.
ところが教育講演のプログラム を見ると,何と食事療法に関する講演がありません. 第56回 学会(2013年)以来,必ず毎年教育講演のテーマには『食事療法』があったのですが,今回に限ってはありません.『食事療法と運動療法は糖尿病治療の2本柱』と言いながら,そのテーマがないのはいかにも不自然です.
ところが義務付けられている指定講演ではない,特別講演のプログラムを見ると,学会最終日の午後,つまり日程の一番最後になって”Featured Symposium #5″というシンポジウムがあり,このテーマが『ガイドラインからみた食事療法の課題と展望』となっています.しかもこのシンポジウムは4人の演者による講演がありますが,所用時間は2時間半とやや長めにとってあり,質疑応答時間などを十分確保しています.
もしも,教育講演から食事療法のテーマを外した不自然さと,この特別シンポジウムとが連携しているのであれば,以下の通りと推定されます.
- 従来の食事療法に関する教育講演とは,ほとんどすべてが食品交換表の解説[★]であった
- しかし,もしも 教育講演で従来通りの食品交換表解説を行っておいて,それとは違うことを改訂ガイドラインに書けば矛盾していしまう
- よって,今回の教育講演テーマから『食事療法』を外した
[★] 『糖尿病専門医なのに,食品交換表の解説をしてもらうのか?』と思われた方もいるかもしれませんが,初めて 糖尿病専門医の申請をする医者もいるのです. その先生の中には,「食品交換表? 何それ?」という方も当然おられます. だから「教育講演」なのです.
ただし,最終日のシンポジウムのテーマ名が「 食事療法の【課題と展望 】 」とあるのは,やや不吉な予感がします. 食事療法について賛否両論あったものの,従来の路線を維持すべきだという反対派が盛り返してしまい,路線変更が将来の課題として棚上げされてしまったとも考えられるからです.
その他 特別講演など
全く同一の食事を食べたのに,なぜ人によって食後血糖値が大きく異なるのか,という問題に取り組んだ報告;
Personalized Nutrition by Prediction of Glycemic Responses
Cell 163 (5), 1079-1094
の著者の一人である,コロンビア大学のTal Korem 准教授がFeatured Symposium #2で登壇します. 興味のある話が聞けるかもしれません.
また特別講演では,『現代人が持つ2型糖尿病の遺伝子は,実はネアンデルタール人から受け継いだ』という説を提唱した,スウェーデンの進化生物学者 Svante Pääbo氏(マックス・プランク進化人類学研究所 遺伝学部門ディレクター)の講演があります.うーーん,そう言われるとどうしようもないですが.
コメント
ガイドラインに従う必要はありません
日本糖尿病学会診療ガイドライン2016
http://www.fa.kyorin.co.jp/jds/uploads/GL2016-00-03_about.pdf
4. 本ガイドラインの使用法
本ガイドラインは臨床医が適切かつ妥当な診療を行うための臨床的判断を支援する目的で、現時点における医学的知見に基づいて策定されたものである。個々の患者の診療は、その患者のすべての臨床データをもとに主治医によって個別に決定がなされるべきものである。
したがって、本ガイドラインは医師の裁量を拘束するものではない。また、本ガイドラインは、すべての患者に適用されるものではなく、患者の状態を正確に把握したうえで、それぞれの診療の現場で参考とされるために策定されたものである。
日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2016」統括委員会・策定委員会・評価委員会は、本ガイドラインの記載内容については責任を負うが、個々の診療行為についての責任を負わ ない。また、本ガイドラインの内容は医療訴訟対策などの資料となるものではない。
精神科医師A 様;
いつも江部先生のブログで拝見しております.
はい,ガイドラインに従わざるをえない,と書いたのは そういう制度なり義務があると書いたつもりではなかったのですが,そう読めてしまいますね. Draftもかなりまとまってきたので,本日か明日の記事にしたいと思います.