耐糖能だって数字で評価したい

経口糖負荷試験(OGTT = Oral Glucose Tolerance Test)

病院の糖負荷試験で,2時間後の血糖値が140未満であれば正常,200以上であれば糖尿病,その中間は境界型という判定.これだけです. ガイドラインでは 試験直前,1時間値及び2時間値の採血が最低条件ですので,仮にそれらの血糖値データ写しをもらえたとしても,75gというとんでもない量のブドウ糖をのむという危険なことをした割には,手元に残るのはそれだけ.病院によっては 30分値や,インスリン値も測定しますが,それらは試験の必須項目であはありません. 病院としては,この患者が糖尿病なのかどうか,つまり治療が保険適応となるのかどうか,それだけがわかればいいからです.

自分の耐糖能

しかし,いまさら病院に行って,『私,糖尿病でしょうか?』などと調べてもらう必要はありません.それは十分にわかっています. そうではなくて,自分の糖尿病の程度が,去年より 悪化しているのか,改善しているのか,または 全然変っていないのか,そこを知りたいのです.
医師の側からすれば,それは 通院のたびに空腹血糖値やHbA1cを検査しているのだから,それで十分だろうという考えでしょうね. ですが,AさんとBさんで,『HbA1cが同じ数値であれば,二人の糖尿病の程度はまったく同じ』とは言えないですよね? 平均値は同じでも血糖値プロファイル(変動グラフの形)は,まるで違っているもしれないのですから.

日々の食後血糖値の測定はたしかに一つの目安になりますが,それは食事の糖質だけでなく,脂質・蛋白質・食物繊維などの含有率で大きく影響されてしまいます.昨日の食後より今日の食後血糖値が高かったからといって,耐糖能が昨日より悪化したとはいえません. 逆もまた真.

血糖値の乱高下の鑑賞法でもみたように,HbA1cでは評価できない 血糖値の変動は,GVI なら定量的に評価できました.それならば, 同様に 自分の耐糖能を数字で表せないでしょうか?いろいろな節目で,自分の膵機能は変化しているのだろうかと考える場合,数字があれば定量的に比較できます.

そこで ミニ耐糖能試験

これを知ったのは,自らも糖尿病であるグレッチェン・ベッカーさんの本を読んだときです.ベッカーさんの本は,日本では2冊翻訳出版されていますが,どちらも2型糖尿病についてはとても参考になります.もともとMedical Writer,つまり医学書の編集者であったという経歴から,彼女の記述は広範かつ正確です.
『糖尿病・最初の1年』という著書の p.290で紹介されていたのが,このミニ耐糖能試験です.12g分のブドウ糖錠剤を水で流し込んで,一定時間ごとに血糖値を自分で測るという簡単な方法です.これくらいの糖質量であれば,悲壮な決意で病院の糖負荷試験を受ける必要もありません.

耐糖能の定量化もできる

このミニ耐糖能試験を何度か行ってみて,ふと思いついたのは,最初のブドウ糖の量をいろいろ変えてみれば,自分の耐糖能の指標が得られるのではないか,ということです. というのも,我が家の鬼嫁奥様に試してもらったこところ,12gのブドウ糖ごときでは,血糖値はピクリとも動きません.しかし私はピョンと跳ね上がります.つまり健常者にとっては,この程度の糖負荷はゼロに等しいのです.

そこで,市販のブドウ糖錠剤が正確に3gであることを利用して,

この錠剤の個数を変えて,それぞれ別の日にのんでみました.血糖値の変動が錠剤何個で顕著になるのかを調べたわけです. 結果は以下の通り.

この結果から,私はブドウ糖として24g以上の糖質を摂るのは危険だなと確認できました. もちろん『ブドウ糖』という純粋な糖質ですから,実際の食事では(特に脂質が共存すると),この2倍くらいの糖質を取ってやっとこれくらいの血糖値になります.

ところで,この図のピーク時の血糖値上昇分(Δ血糖値)と,ブドウ糖錠剤の個数との関係は;

Δ血糖値 at Peak34677793
錠剤個数(個数)46810
ブドウ糖量(g)12182430
ブドウ糖1g当たりのΔ血糖値2.83.73.23.1

となり,これをグラフにすると;

摂取ブドウ糖量が18g以上では,1gあたりの血糖値上昇が次第に小さくなっています.

しかし,これを『ブドウ糖が多いほど,耐糖能がよくなる』とみるのは間違いで,血糖値が170を越えるあたりから.尿中に糖があふれてくるので[尿糖閾値],そのあふれ分だけ血糖値上昇が鈍くなったにすぎない,と考えます. そういう目で見ると,もし尿糖あふれがなかったら,24g以上の血糖は200をはるかに越えていたはずです.

この測定結果により,私の現在の耐糖能限界は 18~24gの間のどこかと判定しました.上記の測定は3年前ですが,その後毎年行ってもほとんど変わっていません(ひいき目に見ると,よくなっていそうにも見えるが,SMBGの誤差を考慮すると有意差はない).

ブドウ糖錠剤では,3gきざみでしか量を変えられませんが,粉であれば グラム単位で量を変えて,より細かく数値を出すことも,一応は可能です.ただ SMBGの測定誤差を考えれば,そこまでやってもあまり意味はないでしょう.

結構時間がとられますが,数値で評価できるのは魅力です.年に1回くらい,暇な日曜日があればやってみるのもいいでしょう.

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