【この記事は 第66回 日本糖尿病学会年次学術集会を聴講した しらねのぞるばの 手元メモを基にした感想です. 聞きまちがい/見まちがいによる不正確な点があるかもしれませんが,ご容赦願います】
ステロイドとは,副腎皮質ホルモンであり,強力な抗炎症作用を発揮します. しかし,同時に血圧・血糖値を上げる副作用があるので,糖尿病の人に使う際には注意が必要です.
一般口演 2-86-3 ステロイドパルス療法におけるインスリン必要量についての検討
ステロイドパルス療法とは,突発性難聴などの急性炎症に対して,大量のステロイドを連続点滴して,速やかに炎症を鎮める治療法です.用いるステロイドは(メチル)プレドニゾロンやヒドロコルチゾンなどの副腎皮質ホルモンです.
これらの薬の添付文書には,こう記載されています.
糖尿病の患者〔糖新生を促進させ、また、細胞のインスリンに対する感受性を低下させるので、症状を悪化させるおそれがある。
したがって,糖尿病の人にステロイドパルス療法を行う際には,細心の注意が求められます. この口演では,突発性難聴又は顔面神経麻痺を起こした2型糖尿病の人16人に,ヒドロコルチゾンでステロイドパルス療法を行った実例が紹介されました.
[対象・方法]
16例の内訳は男性/女性 = 7/9 で,平均HbA1cは 7.3%でした.
ステロイドの投与は,[500mg/日×3日]+[300mg/日×3日]+[100mg/日×3日]を基本プロトコルとしています.
そしてステロイド投与に伴う血糖値上昇に対処するため,その人の推定所要インスリン量の1.9倍を各食前に注射しました.
[結果]
ステロイド投与中は,500mg/日~100mg/日のどの期間でも,朝から夜にかけておおむね直線状に血糖値が上昇しましたが,その傾きはステロイド投与総量の減少につれて次第に緩くなりました.
血糖値上昇を抑制するために投与したインスリンの平均投与単位は,500mg/日では ~25単位,300mg/日では ~27単位,100mg/日では ~22単位という結果でした.500mg/日→300mg/日でステロイドが減ったのに,所要インスリンが逆に増えたのは,500mgの効果が残っていたためと解釈しています.
一日のインスリン総量に対して,朝食前/昼食前/夕食前/眠前の比率は,平均して それぞれ 22%/42%/34%/1%となりました.
さらに個人別の投与結果から,1日のインスリン総投与単位TDD(Total Dose per Day)には下記式の相関がありました.
TDD (unit/day)= 0.61 × 体重(kg) – 14.5
面白いことに,年齢・HbA1c・身長・BMIとの相関性はみられず.体重のみに相関がみられたのです.
[質疑応答]
この口演には発表後,多くの質問がありました.
Q: 低血糖はみられたか?
A: 血糖値=71が最低値だった.ただし自覚症状はなし.
Q: 体重のみに相関するというのは普遍性があるだろうか.
A: たしかに,もっと多数の症例が必要だろう. またC-ペプチドとの関係も検討する必要がある.
Q: メチルプレドニゾロンではなく,ヒドロコルチゾンを用いた理由は.
A: 当院耳鼻科のガイドラインにしたがった.
[続く]
コメント
このインスリン投与量で、血糖コントロールがどんな感じだったのか興味があります。最大でも27単位というのは、意外と少ないんだなと感じました。通常はこれくらいの投与量で十分血糖コントロールができるということでしょうか。
TDD(unit/day)= 0.61 × 体重(kg) – 14.5
これで導かれるインスリン単位量は、最大必要投与量(この報告の場合、平均27単位)でしょうか。それとも、9日間のステロイド治療中の平均必要投与量でしょうか。
わたしの体重で計算してみたら、かなり少ない量になりました。
わたしが突発性難聴でステロイド治療を受けたとき、最大で45単位/日のインスリン投与でした。これでも血糖値は400 mg/dL近くまで上がったんですよねぇ…
通常ならもっと少ない投与量で十分コントロールできるはずが、糖尿病内科医も予想しなかったほどの爆上がりしてしまったということなのかなぁ…?
>それとも、9日間のステロイド治療中の平均必要投与量
こちらだと思います. 総投与量を9日で割った平均値でしょう.
>血糖値は400 mg/dL近くまで
スライドで示された血糖値のグラフをスケッチできなかったのですが,最初の3日間は 朝から夕方までほぼ直線的にに300mg/dl近くまで上がっていたようでした. ただこれは全員の平均ですから,もっと高い人もいたでしょう.