デンシエット

昔のことです.会社の仲間が糖尿病で入院したので見舞いに行ったことがありました.
当時は 糖尿病のトの字も知らない無知でしたが,病室に出されている食事を見て驚きました.

(C) KONIさん

子供の茶碗サイズに白米とお粥の中間のような柔らかいご飯,そして クタクタに似た野菜の小鉢と,一口でなくなりそうな 煮魚が一切れ.

今思えば,たしかに高度肥満だったので,超低カロリー食(VLCD = Very Low Calorie Diet; 通常 一日 500-800kcal)だったのでしょう.

単に肥満というだけでなく,それに付随した合併症も出ていて 一刻の猶予もならない状態=肥満症であれば,緊急手段として あのような食事になるのはやむをえなかったのでしょうが,その時の本人の言葉が印象的でした.

医学的には効果があっても,本人のメンタルまで破壊してしまいます.あれでは空腹を満たすどころか,かえって空腹感をつのらせてしまうでしょう.

ただし それに耐えた甲斐あって,退院後に会ったら 別人かと思うほど痩せていました. もっとも それでも90kgくらいはあると言ってましたが.

当時の私は糖尿病の知識ゼロだったので 詳しくは尋ねませんでしたが,おそらくHbA1cも劇的に改善していたのでしょう. 肥満型糖尿病では 痩せれば ストレートに結果が出ますから.

デンシエット(Densiet)とは

いくら低カロリー化が目的だとはいっても,食事の量,つまりボリュームまで極端に小さくしてしまう必要はないはずだ
満腹感は得られつつ,それでいてカロリーの低い食事にできないか

このコンセプトで考案されたのが,徳島大学の デンシエット(Densiet)です. Density(密度)+Diet(食事)からなる造語です.この記事でも紹介した奥村仙示先生が提唱したもので,現在 徳島大学では宅配弁当のヨシケイや,イオンと協同して 低カロリー弁当を開発・販売しています.

(C) ナチュラルガーデン

 

肥満を何とかしたい」「今すぐ痩せたい」その切実な思いは理解できるのですが,極端に低カロリーな食事を続けると かえって内臓脂肪が蓄積しやすくなると警告されています.

banasik 2012

またこれは学会で(*)報告された症例ですが;

痩せたい一心で,毎日・毎食 ボウルいっぱいの生ワカメだけを食べ続けた結果,甲状腺機能低下症で緊急入院した患者が『海藻の食べ過ぎです』と言われて,『それじゃ 私は何を食べたらいいのですか?』と泣いて訴えた

この報告には,会場の医師からも同情の声があがりました.

(*)数年前の日本糖尿病学会 又は 日本病態栄養学会の症例報告で聞いたのですが,メモが見当たりません.

ゆっくりと しかし確実に痩せていく方法がもっとも安全です.そのためには 無理なく続けられる食事療法が必要でしょう.この点に着眼したのがデンシエットです.

糖尿病であろうとなかろうと,本来 食事とは 楽しく 幸せなひとときであったはずです.

糖尿病の食事を苦行にしてしまいかねない 従来のガイドライン=食品交換表 第7版 は この観点からも破棄されてしかるべきものだと思います.  

コメント

  1. highbloodglucose より:

    病院で出た野菜は、どれもこれもクタクタでしたねぇ… 嚥下能力に問題がある患者でも食べやすいようにかどうか知りませんが、野菜に限らずどれもこれも噛みごたえのない物ばかりでした。「ゆっくりよく噛んで食べましょう」と言われても、勝手に喉に入っていってしまって困りました。
    噛みごたえがないから、余計に食事が物足りなく感じるんでしょうね。
    もっと、ゴロゴロ大きく切った根菜(ごぼう、れんこん)、シャキシャキ感が残った野菜、きのこ類、豆類がたっぷり使われていれば、満足感のある食事になると思います。
    でも、予算の関係で、食材の種類を増やすことが難しいのかもしれないですね。

    >それに耐えた甲斐あって,退院後に会ったら 別人かと思うほど痩せていました

    ちゃんと耐えたのですね。
    耐えられずに、こっそり売店で食べ物を購入して隠れて食べたり、家族に食べ物を持ってこさせる患者も多いと思います。
    わたしは1200kcal食でも耐えたけど、食べて2時間もするとお腹が空いて空いて辛かったなぁ…

    >それじゃ 私は何を食べたらいいのですか?

    「もやしときのこでも食っとけ!」とは言われなかったのですねw

    うちの母親は、管理栄養士に「何を食べればいいのか?」と質問したら、「もやしとイカ」と言われたそうです。その答えを聞いて「なんじゃそら」と思って、それ以降は栄養指導を受ける気にならなかったと言ってましたw(しかし、なぜイカ…?)

    • しらねのぞるば より:

      >野菜は、どれもこれもクタクタ

      現在では,病院食はほとんど給食業者への委託でしょうから,調理から配送・喫食までの時間差は必然的に長くなり,食中毒を何よりも恐れてているからではないでしょうか.

      しかし 食事記録上では 同じ「野菜150g」であっても,生野菜と野菜の煮込みwでは まるで栄養価が違うのですが,そのあたりをきちんと計算しているのでしょうかね.

      >栄養指導を受ける気にならなかった

      食品交換表 第5版が登場して以来,患者には四の五の言わせず 何が何でも『理想的な食事』を徹底させるのだと「栄養指導」を官民一体となって推進しました.『バランスのとれた食事』,こういう言い方には 日本人は実に弱いですからね.