糖尿病治療の手びき

『糖尿病治療の手びき』とは,日本糖尿病学会が発行している 患者向けのガイドで,長い歴史があります.学会はいくつものガイドラインを発行していますが;

  • 糖尿病診療ガイドライン → 糖尿病専門医向け
  • 糖尿病治療ガイド → 一般内科医向け
  • 糖尿病治療の手びき → 患者向け

という位置づけです.

この記事で;

2026年の糖尿病医療
今年 日本の糖尿病患者は 新しい展開に遭遇できるのでしょうか? それを占ってみます.(C) パコたん さん学会 刊行物昨年まで過去10年ほどの日本糖尿病学会刊行物で,主要なものは 以下の通りです.(ただし,これ以外にも特定テーマに特化したガ…

日本糖尿病学会が,患者向けに発行している「糖尿病治療の手びき」の次回改訂は2027年になるかも,と書きましたが,5月に『糖尿病治療の手びき 2026(改訂59版)』が発行されました. 前回の改訂版(第58版_増補)が 2023年9月発行ですから,たしかにそろそろ改訂されてもいい頃です.

(C) 日本糖尿病学会

まず感心するのは 価格です. 上質紙140頁の本文に,海外旅行時の不意の事態に備えて,英語・フランス語・スペイン語・中国語・ハングルで “私は糖尿病です”カードまで付いて,お値段は 900円. 印刷・物流コストを考えれば,ほぼ儲けが出ない実費価格ですね. しかも ここに書かれていることは おおむね現代糖尿病医学の常識だけがまとめられています. 見出しばかりは派手な健康雑誌や,アクセス稼ぎのために 奇抜な説を吹聴するYouTube動画よりは よほどまともです. 一冊 買っておいても損はないでしょう.以下に 述べるのは ぞるばの個人的意見であって,決してこの資料の価値を否定するものではありません.

  

ざっと読んでみましたが

第1章の「糖尿病とは どんな病気か?」から第6章「1型糖尿病はどのように治療するのか」までは,前版までと比べて大きな変化はありませんでした.

ただ p.13のコラム『Q1. 病院に来る時は,朝ご飯を食べないほうがいいんですか?』に対する回答で,『朝ご飯を食べてから来てください』としているのが目新しいですね.

また2型糖尿病の発症に関する記載で,『過食』という言葉が登場する箇所では,いささかの例外もなく 必ず

過食(とくに高脂肪食)

と記載しています. 【脂肪=悪】であり,【低脂質食なら無条件にヘルシー】という立場は変わっていないようです.

しかしながら,この記事にも書きましたように;

『「健康栄養教室」の光と影』
自治体主催の「健康栄養教室」に参加してきました.と言っても,受講したのではなく,講師のパワポスライドを講義に合わせてPC操作するボランティアの助手としてです.…

高齢者ほど 健康情報に敏感なので,【低脂質食=ヘルシー】と刷り込むことは,『だったら 脂質は少なければ少ないほどいいのだろう』と思う人が出かねません.実際 ぞるばが 人生で初めて(そして最後の)受けた栄養指導では,『肉と揚げ物は毒物です』と,管理栄養士にキッパリと断言されてしまいました.

第14章「高齢者の糖尿病はどのように治療するのか?」も見てましたが,サルコペニア予防法の記載はあっても,ただ運動をして筋肉を増やせとしか書いていません.

ということは,まじめな高齢者ほど カロリー不足,蛋白質・脂質不足のまま 無茶な運動をして,かえって サルコペニアに向かわせてしまうのではないかと懸念します.

おや? ゴッソリと!

更に読み進んで 第7章「2型糖尿病はどのように治療するのか」まで来た時,あれれ?と思いました.

こういう記述があったのです.

糖尿病の治療食の栄養素の配分には決まったものはありませんが、目安として総エネルギー量の 40~60%を炭水化物とし、タンパク質は20%として、残りを脂質で摂取します。

  
糖尿病治療の手びき 2026 p.66 何を食べればよいのか
(C) 日本糖尿病学会

この項は,2023年版では,こう記されていました.

糖尿病の治療食の栄養素の配分には決まったものはありませんが、総エネルギー量の 50~60%を炭水化物とし、タンパク質は20%までとして、残りを脂質で摂取することが目安として推奨されています。
  
糖尿病治療の手びき 2023 p.65 何を食べればよいのか
(C) 日本糖尿病学会

ついに炭水化物比率=40%という数字が,患者向けの資料にも登場しました. やっとこれで 診療ガイドラインや治療ガイドとの整合性がとれたわけです.

さらに 気づきにくいですが,2023年版では 『タンパク質は 20%まで』としていたのを,2026年版では 『タンパク質は 20%』とあらためました. これも『20%まで』のままだと,『10%なら もっとヘルシーだろう』と思う人が出かねないからです.

そして この文章に続けて,今回の2026年版では,こういう文章が続くのですが;

  1. 炭水化物
    炭水化物は糖質と食物繊維に分けられます。糖質の過剰な摂取は食後の血糖値の上昇やインスリンの働きを弱める作用など、糖尿病の状態を悪化させるため、好ましくありません。一方、食物繊維は穀物や野菜に多く含まれ、食物の消化吸収をゆっくりにする効果があります。野菜、海藻、きのこ類などの食物繊維を多く含む食材は血糖値を下げる働きだけでなく、空腹感を抑える効果もありますので、うまく活用しましょう。食物繊維は1日20g以上を目標に摂取します。また、穀物類のなかでも消化吸収が早いものと遅いものがあり、白米や白い食パンの糖分は早く吸収されますが、玄米や麦ごはんのように食物繊維が多いと、その食物の糖分の吸収が遅くなり、血糖値の急激な上昇を抑えることができます。
      
    糖尿病治療の手びき 2026 p.66 何を食べればよいのか
    (C) 日本糖尿病学会

これ自体は 当然のことを並べただけで まったく異論ありません.この文章は2023年版とまったく同じです.しかし2023年版では,この後にこういう文章があったのです.

近年、「低炭水化物食・糖質制限食」が話題になっていますが、日本糖尿病学会では「総エネルギー摂取量を制限せすに、炭水化物のみを極端に制限して体重の減量を図ることは、長期的な食事療法の安全性などがはっきりしていないことから現時点では勧められない」という内容のコメントをしています。
  
糖尿病治療の手びき 2023 p.65 何を食べればよいのか
(C) 日本糖尿病学会

2026年版では これがバッサリと削除されました.

この際ですから ついでに 2013年提言も撤回してはいかがでしょうか.いつまでも あの提言にこだわっていては,ガイドラインを改訂するたびに 障害になるばかりですから.

  

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