【FS5-3】フレイル予防を目指した食事療法 名古屋大学 葛谷雅文先生
講演の3番目は,高齢者のフレイルを予防する食事療法の考え方についてでした.
高齢者が要介護になるのは病気が原因か?
年寄りが転倒して骨折→入院,これがきっかけで寝たきりになり要介護…というのはたしかによく聞く話なので,高齢者の介護が必要になるのは病気・事故がきっかけというイメージが強い.しかし,実態を調査してみると,確かに60歳以下の若い人については,病気,特に脳卒中で障がい後遺症が残ったりして要介護になる原因の1位である. ところが高齢者では,必ずしも病気だけでなく,これといった病名はつけられないのだが衰弱状態(フレイル)となり,自力では日常生活もできなくなったというのもまた多い.
フレイルは『病気』ではないが
脳卒中や骨折,肺炎といった病気は,治療しなければ悪化する. 自然治癒はもちろんありえるが,それは若い人の話.また後遺症は決してもとに戻らない. それに対してフレイルは可逆的である.フレイルの定義は;
- 6か月以内に2-3kgの体重減少があった
- 握力が26kg未満(男性)または18kg未満(女性)
- 歩行速度が 1m/秒 未満(青信号時間中に横断歩道を渡り切れなくなるetc)
だが,これに該当する人は75歳未満では10%以下なのに,75-79歳で16%,80歳以上では 35%にみられる.そして,フレイル状態になると,2年以内に要介護になるリスクは,同年代の健常者にくらべ4倍となる.
ところがフレイルになっても,その後一方的に進行するのではなくて,ある条件を満たせば,健常者に戻ることができる.それが運動と食事である.
筋力の低下
骨格筋力の年齢別推移を調べた結果では,体全体の筋肉は全体として見れば50歳代までは保たれていて,それから緩やかに低下していく. ところがこれを部位別に見ると;
[これ以降の図はすべてスライドのスケッチですので,厳密・正確なものではありません.イメージと思ってください
下肢筋の衰えは20歳代をピークとして,一貫して下がる一方である.
よくフレイルになるリスクを判断する「指輪っかテスト」 というものがあるが,単にふくらはぎの太さが十分というだけでは安心できない.同じ太さの足でも;
必ずしも十分な筋肉量といえない場合もある.運動により筋肉を太く保つことが必要.
高齢者こそ十分な蛋白質を
筋肉の低下防止には運動と,筋肉の原料であるアミノ酸,つまり蛋白質の摂取が重要. しかし高齢者は若者と同じだけの量の蛋白質を摂っても,吸収効率が低い.
若い人は15gほどの蛋白質で最大吸収効率に達するが,高齢者はその量では実は十分に吸収できておらず,25gほどで飽和になる. つまり高齢者の方が多く蛋白質をとらねばならない.
75歳以上では,中程度の運動をする人では 1-1.3g/kgほどの蛋白質を,また高強度の運動をするなら 1.5g/kgの蛋白質をとるべきだ.運動は筋肉増量に必須だが,運動をすると筋肉増加と同時に筋肉分解も増進するので,十分にアミノ酸を補給しなければならない.
【食事療法関係 その3】 に続く
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