糖尿病治療でよく検査に使われる6つの指標(年齢,BMI,HbA1c,C-ペプチド,HDL,中性脂肪)を用いて,2型糖尿病患者をデータ駆動型クラスター解析 (Data-driven Cluster Analysis) という手法を用いて分類してみたところ,5つのサブグループに分かれることが見出されました.(欧州 IMI-RHAPSODY プロジェクト )
つまり,「2型糖尿病」と一つの病名で呼ばれてはいても,実際には 病態がかなり異なるグループが混在していることがわかったのです.
ところで,この分類分けは,新たに糖尿病と診断された時点で判定しています. そしてそれらのグループに分けられた人達がその後 どうなったかを10年以上にわたり 個人ごとに追跡しています. これは観察研究ですから,この期間に 各個人の治療には介入していません.
とはいっても,英国(GoDARTS) 及び オランダの糖尿病患者データベース(DCS)に登録された人達ですから,もちろんそれぞれの患者に主治医がいて,適切と思われる治療が行なわれたわけです.つまり治療をせずにほったらかしにしていたわけではありません. ただし その時点では 主治医は『この患者は SIDDだから..』などどという情報を持ち合わせていたわけではありません. なぜなら 解析に用いたデータベースは GoDARTSでは2003-2018年のものであり,DCSは1998-2019年のものであり,上表のクラスター解析は2023年に実行されたのですから.
タイプは変わるのか
するとこういう疑問が浮かびます.
糖尿病と診断された時点で,あるタイプ(例えば SIDD=インスリン分泌不全性 重度糖尿病)とされた人は,その後もずっとそのままなのだろうか?
主治医はSIDDという名前はしらないものの,患者の特徴を見て,つまりインスリン分泌が弱く,HbA1cが高いことを見て,当然それを治療しようとするだろう.具体的にはインスリン分泌を促進する薬を投薬したり,インスリン注射を開始又は強化するはずだ. こうして治療を行っていっても,最初にSIDDだったら,ずっとそのままなのだろうか.
この疑問に答えるため,上記のRHAPSODYプロジェクトに登録された人の中で,きちんと継続したデータがあり欠落していない人,つまり追跡可能だった人すべてについて,[初期][2-4年後][4-6年後][6-8年後]と2年毎に,その時点での再分類を行って追跡しました. つまり 最初に SIDDと分類された人は,2年後も4年後も6年後もそのままなのかなどという再判定を行ったのです.
結果はこの通りでした.
濃く塗りつぶした板状の線は,初期から最後のチェックまで,一貫して同じタイプであった人を表しています. 線の幅が広ければ,タイプが変わらなかった人が多いことを示し,線の幅が細ければ 最後のチェックまで不変だった人は少なかったことを示します.一目で分かるように,ほとんどのタイプでは初期のままでそのまま変わらない人が多かったです. しかし 最上段の SIDDだけは この線が非常に細いですね.つまり最初から最後まで SIDDだった人は非常に少なかったのです.
一方 薄い色で細いうねうねとした曲線は,再判定の機会の毎に,所属するタイプが変わった人達の動きを表しています.例えば,「SIDDからMDに変化した人」と注釈を入れたように,初期には SIDDだったのに2年後の再判定ではMDに変わった人がこれだけいました.
しかしながら,最初(0-2年後)と最後(6-8年後とを見比べると,全体としての各タイプの存在比率はあまり変わっていないように見えます.
そこで,どのような移動パターンが多かったのか,頻度順にTop 10を見るとこの通りでした.
第1位は,最初から最後まで SIRDだった人です.SIRDというタイプは非常に安定していました. 8年間,糖尿病としての治療はもちろん受けていたのですが,SIRD = インスリン抵抗性主体の重度糖尿病という特徴は変わりませんでした.実に最初にSIRDと判定された人の76.52%が最後までそのままだったのです. そして以下 第2位から第4位までは,やはり MDH,MOD,MDという最初のタイプが そのまま継続した人が占めています.これらのタイプは最初に判定された時点の半分ほどの人がそのままだったことになります.
一方これらとは全く異なるのが SIDD です.最初から最後まで SIDD であった人は,わずか 7.81%しかいません. つまり最初に SIDD だと判定されても その後の治療継続で 別のタイプに変わっていったのです.何に変わったのかと言えば,SIDDからMDになった人が 17.01%, MDHに変わった人が 7.27% ですから,つまりは『インスリン分泌不全性の重症糖尿病』から 『軽度の糖尿病』タイプになった人が相当いたことになります.
これは考えてみれば当然の話で,『インスリン分泌が弱く,HbA1cが高い』この状態を見て,手をこまねいている医師はいないでしょう. あらゆる手を尽くして インスリン分泌を促進する薬やインスリン注射で,何とかHbA1cを危険レベルから下げようとするのが当然です. ですから,SIDDではなくなった人は,治療効果により 重度糖尿病から軽度糖尿病にともかく移行できた人達なのです.
コメント
新たに診断された時点でSIDDと分類された人の中には、高血糖毒性により一時的に膵β細胞機能が落ち、インスリンが分泌されなくなっている人がかなり含まれているように思います。この場合、治療によって高血糖が改善されると、β細胞への糖毒性が解除され、またインスリンが分泌されるようになるでしょう。
発覚当時から3か月ほどはインスリン治療が必要だったけど、その後は軽い経口薬で血糖コントロールが良好になるパターンって、ちょくちょく見かける気がします。
>一時的に膵β細胞機能が落ち
ですね. ですからこの人たち,およびチェックポイントの毎にSIDDになったり 逆に外れたりする人は,「本態性の」SIDDではないのでしょうね. ですので,一貫してSIDDであり続けた人は まさにそういう体質,すなわち限りなく1型に近い人であったと思います.