11β-HSD1阻害薬[4] 双子の片方だけにプロポーズ

11β-HSD1阻害薬とは,コルチゾールというホルモンの分泌を抑制するために開発している薬剤です.

コルチゾールは,人体に炎症が発生した時に,強力に炎症を鎮める作用があります.実際 リウマチ・喘息用の薬の主成分でもあります.

ファイザー コートリル
(C) Pfizer

コルチゾールはまた『ストレスホルモン』とも呼ばれています.大けがや炎症などといった症状がなくとも,精神的なストレスを感じただけでも 分泌が増えるからです. このこと自体は人体の正常なストレス反応なのですが,慢性的にコルチゾール過剰分泌が続くと,肥満・高血圧・高血糖の原因となります.

したがって,過剰なコルチゾールの分泌を抑えるために,コルチゾールを生成する『11β-HSD Type1』酵素に注目が集まりました. この酵素の作用を邪魔してやれば(阻害すれば),体内のコルチゾールは減らせるはずだと考えたからです.

ところが初期に開発された 11β-HSD1阻害薬は,ことごとく失敗に終わりました, 下図に示したように,11β-HSD Type1酵素だけを阻害したいのですが,11β-HSD Type2まで阻害してしまうので,コルチゾールを効果的に減らせないのです.なぜそうなってしまったのでしょうか?

上図の通り,11β-HSD酵素のType1とType2とは互いに正反対の反応を促進します.

  • Type1は コルチゾンとNADH+を取り込んで,前者をコルチゾールに変換する
  • Type2は コルチゾールとNADを取り込んで,前者をコルチゾンに変換する

まるで言葉の間違い探しのようによく似ています.
つまりこの2つの酵素は,対象となる化学物質(基質)が非常によく似ているのです.
同じような物質を取り込んで 同じような反応(方向は逆ですが)を行わせるのですから,このように構造がそっくりなのも当然です.

(上図は 違う生物由来の酵素なので 厳密な比較にはなっていません)

2つの酵素はアミノ酸配列の25%が一致するほど似ていますが,遺伝子はまったく異なる染色体にあります.

1997 Oppermann Fig.2を翻訳

初期の11β-HSD1阻害薬の失敗から,11β-HSD酵素のType1だけを阻害する必要があり,Type2酵素は阻害してはいけないことがわかりました. ただ 以上述べた通り,これほどよく似た酵素の一方だけを阻害し,他方は阻害しない 『選択的11β-HSD1阻害薬』というのは非常に難しいだろうと素人にもわかります.

しかし,首尾よく開発に成功すれば,高血圧・肥満・糖尿病など あらゆるメタボ症候群に有効な薬になるはずです.特に欧米では 肥満と糖尿病はほぼ同義語ですから,莫大な売り上げが見込めるでしょう.
世界のメガファーマだけでなく,11β-HSD1阻害薬の開発だけを目的としたベンチャービジネスが相次いで設立されて,激烈な開発競争が始まりました.

Ge 2010Fig.2を翻訳

開発がある程度進展すると,そこで得た知見を基に 次々と特許申請していることがわかります.1秒でも早く特許を出願した方が勝ちなのです.

[続く]

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