驚異の新薬X

以下の記載で『新薬X』とは,実在する特定の薬物を指すものではなく,例示のための架空のものです.

厚労省の人口動態統計年報によれば,平成21年(2009年)の死因別順位で,心疾患による死亡は10万人あたり 143.7人で,第2位でした(第1位は『悪性新生物』 つまり癌です).この数字は2009年のものですから,新型コロナとは無関係です.

心疾患死亡率が半分になった

ここで新薬Xが発表され,この薬の効果をプラセボ(偽薬)対比で調べたところ,新薬Xの服用者は 心疾患死亡率が 1/2,つまり半分になることが明らかになりました.

すばらしい効果です.きっと新聞・テレビの大ニュースになるでしょう.

心臓で亡くなる人が半分に!

相対効果と絶対効果

ですが,上のグラフの目盛りをみてください.この薬Xにより,心疾患死亡率が 0.14%から 0.07%とたしかに半分にはなっています.相対比較ではそうなのですが,絶対値で見ると,10万人あたり140人の死亡者が70人になったということです.全体を100%で表示するとこうなります.

心疾患で死亡する人は,もともと10万人あたり140人程度だったのですから,そうでない人は 9万9860人いたのです.それが新薬Xで 9万9930人になったということです.

治療必要数(NNT)

上記の例では,10万人あたり140人の死亡は,死亡率で言えば 0.14%です. そして新薬Xにより 半分になった,つまり死亡率が 0.07%になりました.

0.14%から 0.07%への減少は,相対的には 半分になったのですから,大きな減少とも言えますが,もともと 0.14%というのは小さな数字です.

0.14%(服用しなかった場合) - 0.07%(服用した場合) = 0.07%(服用による減少効果)

は死亡率の低下分の絶対値です. この絶対値の逆数が 治療必要数(NNT = Number Needed to Treat)と呼ばれるものです.

1/0.07% = 1356.852

この数字は何かといえば,

1357人がこの新薬Xをのめば,心疾患死を1人減らせる

それぐらいの効果だという意味です. そう聞くと『心臓で亡くなる人が半分に!』というニュースから受けるイメージとはずいぶん違いますね.

もちろん10万人がこの薬をのめば,70人の心疾患死を減らせるでしょう.それが『10万人あたりの心疾患死亡率を半減させた』の意味なのです.

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