第64回日本糖尿病学会の感想[20] 『グルカゴンの反乱』のその後-6

ほぼ蛋白質だけ(乳糖・脂質の含有量は10%程度)のホエイプロテインを糖尿病マウスに摂取させた実験で,グルカゴンが大量に分泌されるというのが前回の結果でした.

どのアミノ酸がグルカゴンを上げるのか

では,蛋白質の中のどの成分がグルカゴン分泌を促進しているのでしょうか?
蛋白質は[必須アミノ酸]と,[必須ではないアミノ酸]とに分かれます. また最近では筋トレの効果が上がるとかで 必須アミノ酸の中でも分岐鎖アミノ酸(=BCAA;Branched Chain Amino Acid;バリン,ロイシン,イソロイシン)が注目されています.

蛋白質中のこれらのアミノ酸のどれでもグルカゴン分泌を促進するのでしょうか? それとも特定のアミノ酸を含む蛋白質だけがグルカゴン分泌を増加させるのでしょうか?
そこで これら各種のアミノ酸の違いが調べられています[前記文献].

前回と同様,正常マウス[対照] 及び糖尿病マウス[db/db]に,

  • ホエイプロテインに多く含まれる分岐鎖アミノ酸[BCAA]だけの混合物
  • 必須アミノ酸だけの混合物(ただし BCAAを除く)
  • 必須アミノ酸だけの混合物

をそれぞれ摂取させて,その前後の 血糖値/インスリン/グルカゴンの変化を調べています. もちろんグルカゴンの測定は正確なサンドイッチELISA法で行っています.

図は上段が血糖値,中段がインスリン,下段がグルカゴンの変化です.
又 左図が分岐鎖アミノ酸[BCAA],真ん中が必須アミノ酸,右図が非必須アミノ酸の結果です.

正常マウス[対照]も糖尿病マウスも,どのアミノ酸を摂取しても血糖値は有意に上昇または上昇傾向でした.しかし.インスリン分泌に有意な増加が見られたのは,分岐鎖アミノ酸[BCAA]だけでした.糖質をほとんど摂取していないのに,正常マウス/糖尿病マウス共にインスリンが増えたのです.ただし正常マウスのインスリン分泌増加はごくわずかです.

なぜ,こうなったのかは最下段のグルカゴン分泌を見ると明らかです.糖尿病マウスは,分岐鎖アミノ酸[BCAA]を摂取した場合のみ 大きくグルカゴン分泌が増加しています.グルカゴンは糖新生を促進して血糖値を上昇させますから,それを補うためにあわててインスリン分泌を増やしたのです. マッチで火を点けてポンプで消しているわけで,完全に矛盾した現象です.

この報文では 以上の結果などから,

糖尿病患者では BCAAの代謝に異常があり,グルカゴン分泌をうまく制御できなくなっているのではないか,そしてそれはインスリン分泌,つまり膵臓β細胞の機能とはまったく無関係な 膵臓α細胞固有の機能障害ではないか

と推論しています.

[21]に続く

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