『2型糖尿病』は存在しない[11]異論1への反論

Dennis博士は『Ahlqvist分類よりも,発症年齢・BMI・HbA1cなど従来の治療指標にしたがって治療する方が,実際の効果があがる』という主張を論文発表しました.

この指摘に対して Ahlqvist博士はCorrespondenceで こう答えています.

Dennis博士の『BMI,発症年齢,HbA1cから将来の糖尿病合併症発症を予測する手法が有効だ』という主張に対して,Ahlqvist博士は,それでは患者の糖尿病病態の原因について何も情報を与えていないことが問題だと指摘します.ある患者がインスリンの不足のために高血糖なのか,インスリン分泌は十分だが,インスリン抵抗性のために高血糖なのか,それを判別しないままでどんな治療指針が立てられるのだろうかと疑問を呈しています.

Ahlqvist博士は,その証拠として Dennis博士が用いたADOPT. RECORDの2つの臨床試験において,インスリン抵抗性改善薬であるロシグリタゾンが,Ahlqvist分類のSIRDグループの患者に特に有効であった【下図】ことは,博士の論文中のデータからも明確であり,これこそがAhlqvist分類の有効性の証左であるとしています.

またAhlqvist博士は,Dennis論文で用いた臨床試験のデータベースには,真に転帰予測が必要な中度~重度の糖尿病患者のデータが含まれていないことを指摘しています.

Dennis博士の用いたデータベースは,全人口データ(=無差別・無条件に地域住民全員のデータを集めたもの)ではなく,臨床試験に含めた患者のデータベースであること,そして臨床試験においては(特にDennis博士が採用した,ADOPTRECORDのような薬効比較試験では)予測できない危険性を避けるために,重症の糖尿病患者・リスクのある糖尿病患者は そもそも最初から除外されてしまっていることが問題であるとしています.

それに対して,Ahlqvist分類は,臨床試験で除外されるような人にこそむしろ重要な転帰予測情報を与えるのであって,この方がはるかに実用的意義が高いと反論しています.実際,Ahlqvist博士が自分の研究に用いたスウェーデン Scania県の全人口糖尿病患者データベース(ANDIS)に,ADOPTRECORDと同じ除外基準を適用してみたら,深刻な合併症が懸念される SIDDでは90%,SIRDで50%の患者データが除外されてしまい,これでは本当に重篤な合併症を防ぐことが目的の実臨床には役立たないと反論しています.


素人の私が判定するのも僭越ですが,これは Ahlqvist博士に軍配をあげたいです. 臨床試験とは,『選ばれた あまり問題のなさそうな優秀な患者』を対象にすることがほとんどです.Dennis博士が,そのような『偏った』患者だけが対象の臨床試験のデータを用いて,Ahlqvist博士の『地域の糖尿病患者全員を調べ上げたデータベース』に対抗しようとしたのは軽率であったと思います.


ところでAhlqvist分類に対して 出されたもう一つの疑問は,

『その分類はもっともらしく見えるが,時間がたてば 同じ患者があるグループ(Cluster)から,別のグループに移ってしまうことはないのか? つまりこの分類は安定しているのか』

というものです.これもまた強力な異論です.

[12]に続く

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