インスリン分泌不全 データ解析01[補足]

ひとつ前の記事 で,【『インスリン分泌不全』とはそもそも何なのか,その定義を検索しましたが,明確に数値などで定義したものは見つけられませんでした】と書いたところ,さっそく「インスリン分泌指数やHOMA-βがある」というご指摘を頂きました.

インスリン分泌指数やHOMA-βとは下記式で算出されるものであり,たしかに 診療基準値も示されています;

ですが,私は「これらの指標では 患者のインスリン分泌状況を【量・速度】ともに正しく評価できていない」と思っています. もちろん暴論ですが,そう考える理由は以下の通りです.

指標は指標にすぎない

もしも正確に患者のインスリン分泌量・応答速度を調べようと思ったら,CGMのように血中インスリン濃度を連続的に測定したり(←これはそんな機器はないので不可能)あるいは まるで生体実験のようなグルコースクランプ試験 を行うしかありません.

しかし,病院に糖尿病患者が一人来るたびに全員にこれを行えるわけがありません. そこで,簡便に得られる検査データで,クランプ検査などの結果と相関関係があるものを工夫して,経験的又はモデル計算から割り出したのが上記の式です. 『インスリン分泌のある程度の目安』としては,こうするしかないのです.

では どれくらいの精度なのか

一例ですが.インスリン分泌指数と,糖負荷試験において最初に放出されるインスリン(第1相分泌)量実測値とを比較したものがあります.

たしかに【相関】はあります. しかし,実測点は ピシリと直線の上に乗っているわけではありません.この程度の相関なのです(相関係数= 0.74;この種の指標としてはこれでも優秀な方です).

しかし,私がこのインスリン分泌指数を使えないと判断した大きな理由は,特に痩せ型の日本人のインスリン分泌指数は 0.5をはるかに下回る人ばかりで,その領域(グラフの原点に近い領域)だけを見ると,同じインスリン分泌指数値でも,実際のインスリン分泌量には倍くらいの開きがあるからです. 空腹時でも糖負荷試験中でもインスリン分泌量が多い白人患者に使うのなら,これはよい指標でしょうが,日本人に使うのは無理があります.

『AさんとBさんとで HbA1cが6.0%で同じだから,二人の糖尿病の程度は全く同じだ』というのが乱暴な議論ならば,『AさんとBさんとで インスリン分泌指数が0.25で同じだから,二人のインスリン分泌能は全く同じだ』も同様に乱暴であり,実態を見誤ってしまうという考えです. よってあくまでも生データを重視していこうと思います

なおHOMA-βは,インスリン分泌指数とは逆に,体内各組織の 糖・インスリンに対する応答を数理モデル化した演繹的アプローチ ですが,やはり現実のデータにピッタリ合うというわけではないので,発表から30年以上たった今でもモデルの改良が進められています.

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