この記事で;
遺伝子変異が原因となる糖尿病で,MODY(Maturity-Onset Diabetes of the Young;若年発症成人型糖尿病)のことを調べました. 遺伝子のごくわずかな変異が原因なのですが,それが血糖値維持にかかわるものであっても,根本的な治療法がありません.
ただし,その中でもMODY2と呼ばれる遺伝性糖尿病は,グルコキナーゼの動作が障がいされてしまうもの(GCK-MODY)で,人により ほとんど無症状から重症になる場合もあり,実際の病態は多様です.
グルコキナーゼについては,下記の連載記事で みっちりと勉強してみましたが;
グルコキナーゼ[1]
グルコキナーゼ[2]
グルコキナーゼ[3] 解糖系とヘキソキナーゼ
グルコキナーゼ[4] ヘキソキナーゼのファミリーです
グルコキナーゼ[5] 速度計の目盛りがズレたら
グルコキナーゼ[6] 糖尿病ではどうなるのか
グルコキナーゼという酵素は,体内の血糖値が高いのか/低いのかを感知するセンサーの役目を果たしているようです. そして,グルコキナーゼの動作がおかしくなると,いわば車の速度計が壊れたようなもので,「血糖値の上下に応じてインスリンを分泌を制御する」という正しい応答ができなくなってしまいます.具体的には,血糖値が危険なほど上がっているのに,『まだ血糖値はそれほど高くない』と勘違いして,インスリン分泌が始まらない/遅れる などという現象です.

そこで,グルコキナーゼの感度を上げてやれば,糖尿病の治療薬になるのではないか,という考えから 「グルコキナーゼ活性化薬」が開発されました.具体的にはグルコキナーゼ酵素にとりついて,ツンツンと刺激してやると,グルコキナーゼの血糖値応答感度がすばらしく上がるというものです.
グルコキナーゼ活性化薬[1]
グルコキナーゼ活性化薬[2]
グルコキナーゼ活性化薬[3]グルコース恒常性
グルコキナーゼ活性化薬[4] 低血糖の時は寝ています
グルコキナーゼ活性化薬[5] う, 休めない
グルコキナーゼ活性化薬[6] バランスがとれた
グルコキナーゼ活性化薬[7] 最新情報
グルコキナーゼ活性化薬[8完] 今後の予測
この薬の効果はてきめんで,服用すると,まるでインスリンを注射したのかと思うほど 直ちに血糖値が低下する人もいました.グルコキナーゼを刺激すれば,血糖値は下げられるというアイデアは正しかったのです.
グルコキナーゼ活性化薬は,Rocheが開発したドルザグリアチン(Dorzagliatin)で,【一応】完成しました.【一応】と書いたのは,この薬には 実際の臨床治療に用いるには難しい点があったからです. それは
- [1] グルコキナーゼを常用していると,常に肝臓にグルコースが取り込まれるので,肝臓の処理能力をオーバーしてしまい,脂肪肝になりやすくなる.
- [2] グルコキナーゼをどれくらい活性化すればいいかは,個人差が大きく,薬の「匙加減」が難しい
という問題です. なのでPhase3試験で,十分な有効性は確認されたのですが,まだ実用化・市販には至っていません.
ところで,冒頭の遺伝性糖尿病 MODY2を思い出してください. MODY2は,遺伝的原因で,グルコキナーゼの活性が常に低いままなのです.だとすれば,
グルコキナーゼの活性を常時上げるグルコキナーゼ活性化薬=ドルザグリアチンは,グルコキナーゼの活性が常時低下しているMODY2には ピッタリではないのか?
と考えられます.
実際 その通りでした.

MODY2の人は,膵臓のインスリン分泌能は まったく正常なのですが,ただ 遺伝子のわずかな変異のためにグルコキナーゼの感度が低く,血糖値が上がっても それを伝達できないのです. このMODY2(グルコキナーゼ-MODY)の人に,強力な糖尿病薬を次々と投与してみても 効果がなかったのですが,ドルザグリアチンを投与したら 直ちにHbA1cが低下したのです.

MODY2の発症機構,そして ドルザグリアチンの作用機構から考えて これはまったく整合しています.
MODY2には 無症状~軽症の人もいるので,実際には自分がMODY2だと知らない人も多いと思われます.遺伝子検査をしない限り 判明しませんからね. その人たちにとって,これは特効薬となる可能性を秘めています.


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