グルコキナーゼ活性化薬[1]

グルコキナーゼ活性化薬とは

  • インスリン分泌能力は十分あるのに,血糖値が上がってもインスリンが分泌されない.
  • 血糖値が上がり もはやグルカゴンの出番はないはずなのに,依然としてグルカゴンがバンバン出る.

この不可解な現象は,単に膵臓のインスリン分泌能の強弱だけでは説明できないものです.
つまり,上記の現象は『血糖値が高い状態にあるのに,それを低いと勘違いしている』からであり,血糖値のモニターであるグルコキナーゼの『目盛りがズレてしまったからだ』(下図)と思われます.

そうであれば,対策は明らかです.ズレた目盛りを正しく戻せばいいのです.

この考えの基に,『グルコキナーゼを活性化する薬』を作ればいいではないかと,誰しも思うでしょう.実際 2000年頃からグルコキナーゼ活性化薬の開発が進められてきました.
それも一つや二つではありません.この特許をはじめとして,100件以上のグルコキナーゼ活性化薬が提案されています.

MK-0941

その中で もっとも有望と見られていたのがMK-0941というグルコキナーゼ活性化薬でした.『MK』という名前からおわかりの通り,Merckが開発したものです.

MK-0941は,肝臓と膵臓に存在するグルコキナーゼの両方に作用して,グルコース濃度(=血糖値) に対する感度を高めることが動物実験で確認されました.

Eiki 2011

MK-0941を加えられたグルコキナーゼでは,血糖値 100mg/dlに相当するグルコース濃度においてグルコースのリン酸化速度が 5倍に上昇しています.

そこで,人為的に糖尿病にしたマウスに MK-0941を 1,3,10,30mg/kg投与したところ,投与量に応じて血糖値の低下が確認されました[下図 上段].

Eiki 2011

もっとも多い投与量の 30mg/kgでは,血糖値が190mg/dlから1時間後に 90mg/dlにまで下がっています. まるでインスリンを注射したのかと思えるほど急激な血糖値降下です. 他の投与量でもそれぞれの量に応じて血糖値が下がっています. 図の下段は,同時に測定した血中のMK-0941の濃度です. これを見ると 血中濃度が 約1μM以上であれば,血糖値低下効果が維持されているようです.

グルコキナーゼの活性を高めれば,血糖値を下げられる,しかも即座に大幅に下げられることが証明されたのです.

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