グルコキナーゼ活性化薬[7] 最新情報

メルクがグルコキナーゼ活性化薬 MK-0941 を開発していた頃,ほぼ同時期にロシュ(Roche) もやはりグルコキナーゼ活性化薬 RO4389620を開発していました.

この薬は,開発コード名RO4389620だけでなく,ピラグリアチン(Piragliatin)という名も与えられていました. MK-0941と同様に,ピラグリアチンも短期投与ではすばらしい血糖値低下効果を示しました.

空腹時血糖値 = 145-164mg/dl,HbA1c ~7%前後の2型糖尿病患者を10人を対象にして,ピラグリアチンを投与したところ,その投与量に応じて 投与8日目には最大 32.5%も空腹時血糖値が低下しました.

すばらしい効果ですが,ピラグリアチンは糖尿病薬として販売されることはありませんでした. MK-0941と同様に,第2相試験で低血糖・肝機能(ALT)悪化がみられたため,実用化は頓挫したからです.
実は上記の文献でも,下図の通り 投与日数が8日を越えると,やはり投与量に応じて 血糖値がリバウンドしてくることは見出されていたのです.この点でも ピラグリアチンは MK-0941と同じ道をたどりました.

ドルザグリアチン

Rocheは,それでもあきらめず,その後もグリアチン系統化合物の改良を進めて,第4世代のグリアチンである ドルザグリアチン(Dorzagliatin; RO5305552)を開発しました.

ドルザグリアチンは,第1相試験( NCT01952535 NCT02077452 NCT02386982 NCT02597400)をクリアし,第2相試験(NCT02561338)でも,12週間の投与で用量依存的に 最大1.1%のHbA1c低下,重篤な副作用はほぼなしという優秀な結果だったので,第3相試験まで進みました.

ドルザグリアチンの構造は下記の通りで,前回記事で取り上げた 化合物 No.28とは異なりますが,やはりグルコキナーゼの柔軟な構造変化を妨げない(★)ものと推測されます.

(★) これは単にぞるばの推定ですが,どのグルコキナーゼ活性化薬も,初期の低分子化合物から,改良を重ねるにつれて 分子サイズが大きくなっています.分子サイズが小さいと,複雑に入り組んだグルコキナーゼの立体構造の奥深くまで入り込める可能性があります. しかし,空間的に大きな広がりを持った分子だと,グルコキナーゼの内部までは入り込めず,表面に吸着(配位)するのが精いっぱいでしょう.このことが グルコキナーゼの柔軟な構造変化を妨げない要因になっているのではないかと思います.

このドルザグリアチンの第3相試験の結果が2報,相次いで報告されています.

2つの試験のデザインはほとんど同じで,2型糖尿病患者を対象に24週投与後のHbA1c低下効果をOutcomeとしています.また24週の投与試験後は,さらに28週(合計 52週)を治療期間として 投与群・プラセボ群の両方にDorzagliatinを投与しました.
2つの試験の違いは,前者(Yang 2022)が,メトホルミン治療中の2型糖尿病患者に追加薬としてDorzagliatinを投与したもので,後者(Zhu 2022)は 糖尿病の薬物を服用したことがない2型糖尿病患者に 初めての投薬としてDorzagliatinを用いたものです.

その結果は 驚くほどよく似ています.

Yang 2022 Fig.2
Zhu 2022 Fig.2

このようになった理由ですが,ぞるば個人の考えでは 以下のことが要因と推測しています.

  • 試験が行われたのはすべて中国の医療機関なので,対象患者はすべて中国人と人種的にほぼ均一であったこと.
  • またその 糖尿病のパターンも,欧米の肥満型/強度のインスリン抵抗性よりは,東アジア人に多い 普通~小太りで,インスリン抵抗性はそれほど強くないタイプでほぼ統一されていた.

[続く]

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