MDHって何だ? 思い当たること

欧州の国際的官民共同機関 IMI(Innovative Medicines Initiative;革新的医療推進機構)では巨額の予算を投じて,様々な医学・公衆衛生プロジェクトを推進しています.

Innovative Medicines Initiative

ここまで紹介してきたIMIの RHAPSODYプロジェクトは,”For precision therapy and prevention of diabetes”[糖尿病の精密治療と予防をめざして],すなわち糖尿病治療を「標準治療」で十把一絡げに行うのではなく,患者一人一人に最適・正確な治療法を確立することを目的に開始されました.

IMI Rhapsody Project

この観点から,従来『2型糖尿病』とまとめて呼ばれていた病気は,実は相互に病態の異なる複数の疾患であり,

そうであるなら,その病態ごとにもっとも効果的な治療法があるはずだと探索を続けてきました.

ところで『2型糖尿病という病気は存在しない』ことを最初に指摘したのは スウエーデンの Emma Ahlqvist博士でした.

ただし,Ahlqvist博士の見出した『複数の2型糖尿病』と,RHAPSODYプロジェクトが発見した『複数の2型糖尿病』とは,非常に似通っていますが,一部で異なります.

そこで,RHAPSODYプロジェクトの最終報告である この文献では;

Li_2024

オランダの糖尿病患者 登録データベース(DCS)から,両者の分類のどちらでも使えるデータが揃っている人を選び出して,双方の分類がどれくらい重なっているか (あるいは一致していないか)を検証しています.

Li 2024 Supplement Fig. 11.1

ご覧の通り,異なる分類指標(※)を用いたにもかかわらず,SIDD/SIRD/MOD はよく一致しています. また Ahlqvist分類で MARD( Mild Age-Related Diabetes;加齢性 軽度糖尿病 )と分類された人は,そのほとんどが MD(Mild Diabetes; 軽度糖尿病)又は MDH(Mild Diabetes with High-HDL;高HDL 軽度糖尿病)に含まれることがわかります.そしてAhlqvist分類で,今一つ特徴が曖昧だったMARDは,実は 二つの異なる病態(=MD,MDH)が混在していたためであったことが原因だったとクリアになりました.

(※)異なる分類指標:Ahlqvistでは,発症時の BMI・年齢・HbA1c・HOMA2-β・HOMA2-IR,RHAPSODYでは,発症時の BMI・年齢・HbA1c・HDL・C-ペプチド.

 

思い当たること

この結果を見て 思い当たることがあります.それはこの記事で紹介した;

糖尿病とテロメア長との関係がより明確になったと思えるからです. Ahlqvist分類では,MARDを除く SIDD/SIRD/MODのテロメア長は健常人と変わらなかったのですが,MARDだけが ややテロメア長が短くなっていることが見出されています.

Huang 2020

しかし MARD = MD + MDH であるならば,実はMDHではテロメア長は短くなっておらず,MDだけが短くなっているのではないか. そう考えると,MDとは純粋に加齢性であるということになり,すべてが符合します.

 

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