日本糖尿病学会の食事療法ガイドライン改訂はどうなった[3]

体重と消費カロリーの関係[健常人]

以前の記事『SGLT2阻害薬は「やせ薬」か[3]』 で 豪州Swinburn教授が,二重標識化水(DLW)[★]という高価な試薬を用いて,1399人の成人と963人の子供について,その体格と消費カロリーとの関係を厳密に測定した結果を紹介しました.

[★] 二重標識化水 = 水素(原子量1)を重水素(同2)に,酸素(同16)をO18酸素(同18)に変えた水. 放射能はないが,質量分析計で 通常の水と区別できる.この水を飲んだ人の呼気や汗の 水分・二酸化炭素を分析することで,その人の代謝=消費エネルギーを正確に測定できる.ただし二重標識化水は非常に高価なので,この測定を行うのに一人当たり二重標識化水だけで10数万円以上もかかります.

この測定は 健常な人を対象にしたものでした。 では,糖尿病の人に同じ測定を行い,健常人と比較するとどうなのでしょうか? 体格が同じでも,健常人と糖尿病患者では 1日の消費カロリーが違うのでしょうか?

糖尿病患者との比較

外国の結果です. なお,ここで測定されているTEE(Total Energy Expenditure)とは,1日あたりの総消費カロリ-のことで,基礎代謝ではありません.

二重標識化水(DLW)を用いて,健常人と糖尿病患者の 1日の総消費カロリーを厳密に測定した結果です.

同じような年齢・体格であれば,糖尿病でもそうでなくとも 1日の消費カロリーはほぼ同じである,という きわめて当たり前の結果でした.

日本人ではどうか

上記の報告は,外国の 主として肥満者を対象にした測定でしたが,CLEVER-DM というプロジェクトで,非肥満の日本人を対象にして同じ測定が行われています.

やはり,日本人でも 正常人と糖尿病患者とで 消費カロリーに差はありませんでした.

更に 糖尿病患者を分類して,インスリン使用の有無/薬の服用有無 で調べてみましたが,これも差がありませんでした.

考えてみれば,これはある意味当然の結果で,現代の糖尿病患者とは,たしかに血糖値は高いものの,よほど重症でない限り ごく普通に生活を送れています.検査を受けなければ,自分が糖尿病であることすら知らない人もいます.

ところが前回記事 に書いたように,『食品交換表 第1版』を発行した時代の『糖尿病患者』とは,重度の症状が顕在化した人のことでした. そのような状態の患者の消費カロリーを,当時の原始的な方法で消費カロリーを測定したら「健常人よりも消費カロリーが少ない」となったので,食品交換表もそれを前提にしてカロリー設定したにすぎないのです.そしてそれが一度も見直されることなく,現在まで続いています.

[4]に続く

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