DPP-4阻害薬は『弱い』薬なのか_5

2009年12月にDPP-4阻害薬が発売されてからまだ半年も経過しない内に,衝撃が走りました.

DPP-4阻害薬の服用を開始した人に低血糖が頻発したのです.もちろん新薬でなくとも糖尿病患者が低血糖を起こすことは 珍しいことではありません.インスリンの打ち間違いや,食事をせずに薬を呑んだ場合などです.
しかしながら,DPP-4阻害薬の服用と関連して低血糖が発生したことに全国の医師は驚きました.「DPP-4阻害薬は食後血糖値が上昇した時だけインクレチン効果でインスリン分泌を促進するから低血糖を起こさない」というのがウリだったからです.

実は第54回日本糖尿病学会でも,一例だけ DPP-4阻害薬で低血糖に陥った例が報告されていました.

74歳男性.5年前に2型糖尿病と診断され内服加療開始.
半年前に他院よりのグリベンクラミド7.5mg内服中に低血糖昏睡にて当院へ救急搬送歴あり.
他院でグリメピリド6mg/日を内服し, 3日前よりシタグリプチン50 mg/日を追加された.
就寝中にうなっているのを発見され救急搬送.採血にてPG[注:血糖値] 23mg/dlと低血糖を認め,ブドウ糖静注したところ血糖上昇し意識回復した.
 
入院後グリメピリド,シタグリプチン中止し,経口全量摂取できていたが,約24時間にわたり血糖34から95mg/dlで推移した

第54回日本糖尿病学会 年次学術集会 3-P-198

SU剤の一種であるグリメピリドを服用中の人に,さらにDPP-4阻害薬であるシタグリプチンを追加投与したら,意識を失うほどの低血糖を起こし,それが長時間続いたのです.発見された時の血糖値は 23mg/dlときわめて危険な状態でした. 気づかれなければそのまま亡くなっていたかもしれません.

同様の例が全国で相次いだため,厚労省は DPP-阻害薬の『重要な副作用等に関する情報』を発信しました.

医薬品・医療機器等 安全性情報 No.269[PDF]

同時に 当時発売されていた DPP-4阻害薬について,添付文書に『低血糖のおそれがある』と追記するよう通達しました.

使用上の注意改訂情報(平成22年4月27日分)

SU剤との併用が原因

実は 『DPP-4阻害薬投与による低血糖発生』には,顕著な特徴がありました. 上記の学会報告例,および厚労省通達に記載の症例の通り,SU剤を服用していた人に DPP-4阻害薬を追加投与したら 重篤な低血糖が発生したのです. もちろん この記事 の通り,当時全国では 多数の2型糖尿病患者に SU剤+DPP-4阻害薬の組み合わせが処方されていたのですから,この組み合わせなら必ず低血糖が起こるというわけではありませんでした. ただその発生率が異様に高く,かつ発生した時には(意識を失うほどの)重篤な低血糖になる,これが問題でした.

このような低血糖に陥った患者は 長年 SU剤を継続してきた人でした. 長期にわたるSU剤の投与でHbA1cがあまり下がらなくなってきた(『二次無効』)の人もいました.上記の学会報告例でも,男性はグリメピリド 6mgを服用していたようです.これはグリメピリドの最大用量です.これ以上増やすのは禁忌なので もはや増量できません. したがって,医師は治療強化のつもりで DPP-4阻害薬を追加したのです.

またDPP-4阻害薬だけを単独に服用した人に重篤な低血糖の報告例はありませんでした.

つまり,

という3つの条件が揃った場合のみ 予想外の低血糖が引き起こされたのです. では,その[ある条件]とは?

[続く]

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