2型糖尿病って本当にあるのでしょうか? その2

Data-Driven Cluster分析で 糖尿病を5群(Cluster)に分類

スウェーデンのAhlqvist博士が,オハジキの色分けと同じようにして,Data-Driven Cluster分析手法を用いて新たに糖尿病と診断されたスウェーデン人13,000人(ただし 18歳未満,および妊娠糖尿病,遺伝性・薬物性糖尿病など原因が明らかなものを除く)を分類してみたところ,最終的に下記5群に分けるのが もっとも群間・群内で矛盾の少ないものでした.

5群(Cluster)に分けられた糖尿病

結果をまとめると下記の通りでした.

分類型病名特徴存在比率
Cluster 1 SAID
Severe Auto-Immune Diabetes
重度自己免疫性糖尿病
低BMI,代謝不良(血糖コントロール等),
インスリン不足,抗GAD抗体 陽性,
従来の1型に相当
6.4%
Cluster 2 SIID
Severe Insulin Deficient Diabetes
重度インスリン分泌不全糖尿病
相対的にやせ型,
低インスリン分泌(低 HOMA2-β),
血糖コントロール不良
17.5%
Cluster 3 SIRD
Severe Insulin Resistant Diabetes
重度インスリン抵抗性糖尿病
強いインスリン抵抗性(高HOMA2-IR),
高度の肥満
15.3%
Cluster 4 MOD
Mild Obese Diabetes
軽度肥満糖尿病
肥満はCluster 3と同等以上だが,
インスリン抵抗性は高くない
21.6%
Cluster 5 MARD
Mild Age-Related Diabetes
軽度加齢性糖尿病
高年齢が特徴,種々の代謝異常が混在 39.1%

5つに分類されたわけですが,最初のCluster 1 は,ほぼ従来の1型糖尿病に相当します.しかし,従来であれば2型糖尿病とされていたものは4種の異なる病気であると分類されました.以下,個別にみていきます.

なお,この論文では5つに分類された病型の内,3つに Severe(重度),2つに Mild(軽度)という言葉を先頭に付けました.これには異論もある(患者は「軽度」と言われると,病気を過度に楽観してしまうおそれがある)のですが,合併症に至るリスクが大きいものを『 重度 』,相対的にリスクが低いものを『軽度』と呼んだだけで,決して治療不要という意味ではありません.

Cluster 1 重度自己免疫性糖尿病

ほぼ従来の1型糖尿病です.ここだけは 従来の診断分類と一致しています. 抗GAD抗体が陽性だった患者をまとめたものです. 他のClusterには 抗GAD抗体陽性の人は含まれません. なお,最近 抗GAD抗体がわずかに陽性(微陽性)であるケースが存在していることが明らかになっていますが,この論文ではそこにはふれていません.また,この群の27%は亜鉛Transporter 8A抗体を持ち,この率は他のClusterに比べてとびぬけて高くなっているのが特徴です.

Cluster 2 重度インスリン分泌不全糖尿病

インスリン分泌能が(Cluster 1を除く)4Clusterの中で飛びぬけて低く, 糖尿病と診断された時点ですでにHbA1cが高く,しかもその後も一貫して高値が続くタイプです. ケトアシドーシスに陥る率もCluster 1に次いで高い. 最初の投薬から第2の薬を追加に至る期間がもっとも短く(つまり,最初の投薬だけでは効果がおもわしくない),治療目標達成にかかるまでの期間がすべてのCluster中もっとも長いことが特徴です.また網膜症発症率も一番高い.

Cluster3 重度インスリン抵抗性糖尿病

もっともインスリン抵抗性及びHbA1cが高く,高度の肥満を伴う. 非アルコール性脂肪肝を併発している率も もっとも高い.5つの群の中で,糖尿性腎症に至るまでの期間がもっとも短いこと,インスリン分泌能が5群中もっとも高い点で Cluster 4とは区別される.

Cluster 4 軽度肥満糖尿病

「軽度」という言葉を付けてしまったので誤解を招きそうですが,「肥満が軽度 」 という意味ではありません.どころか肥満度合(BMI)はむしろCluster 3以上です. また脂肪肝も Cluster 3に次いで多い群です.患者の外観は高度肥満者という点では Cluster3と見分けがつきませんが,この群が 明確にCluster 3と別であるとされたのは,ただ腎症リスクが 全Cluster中 最低であったからです

Cluster 5 軽度加齢性糖尿病

平均年齢がもっとも高く(60-80代),インスリン分泌能(HOMA2-β)は正常域,インスリン抵抗性もなし,ただHbA1cが糖尿病診断基準に該当(それでも平均HbA1cは5群中最低)しただけという人です. 特徴的な合併症はないのですが,元々高齢なので老化進行もあり,罹患歴が長引くほどすべての合併症がじわじわと増えていきます.

以上が Ahlqvist 論文の概要です.これだけなら 単に分類しただけなのですが,この論文が俄然注目されたのは単なる新規分類法の提案にとどまらなかったからです.

[その3 に続く]

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