ケトン体は『飢餓時だけに生成される非常エネルギー』なのか[9]

使えるものは何でも使う

心臓は 人が生まれてから死ぬまで,一瞬たりとも休まず 1日にタンクローリー1台分の血液を送り出しています.

心臓は筋肉の塊のような臓器です.しかも寝ている時ですら動いています.寝ながら筋トレできる人はいませんが,心臓は決して休まず 24時間筋トレをやっているようなもんです. 当然 そのエネルギー消費量=要求カロリー量は 半端なものではなく,1日に6~35kgのATPを消費します. ATPをkg単位で言われてもピンときませんが,心臓自身の重量の70倍です.

これだけ大食いの臓器なので,心臓は 食べ物(=エネルギー源)については えり好みしません.あれが好きだとかこれは嫌いだとか,『納豆は臭うから食べない』などと文句は言わず,使えるものならすべてのエネルギー源を使います.

しかも,これらを使う割合も一定ではありません.一応 通常負荷時には 脂肪酸・グルコースがメインで,さらにケトン体やアミノ酸も使うとされていますが,グルコースはほとんど使っていないという報告もあります. しかも高負荷時には その時その時でもっとも利用しやすいものをダイナミックに切り替えて使います(=Metabolic Felxbilty ).

給油しながら走っている自動車のようなもので,えり好みをしている余裕などないからです.

Kadir 2020 Fig.2を翻訳・改変

心不全・糖尿病では

ところが,心不全に陥った心臓や,糖尿病患者の心臓では,ケトン体が優先して使われるようになります.
心不全の状態では,血流が不足,したがって心臓に届けられる酸素が乏しくなるため,最小限の酸素で最大のエネルギー(=ATP)を生み出せるケトン体がもっとも有利だからです.

Kadir 2020 Fig.2を翻訳・改変

ケトン体は 弱った心臓には 最後の命綱のようです.

[10]に続く

コメント

  1. 西村 典彦 より:

    >ケトン体は 弱った心臓には 最後の命綱のようです.

    私の趣味の一つはスキーですが、年と共に疲労が溜まりやすくなり、午前中には元気に滑れても特に昼食後は足が動かなくなることが多くなり、昼食を摂ってもエネルギーが補給された感じが全くしなくなっていました。
    それが糖質制限を実践するようになって(5年目ですが)、最近は一日中、割と元気に滑ることができます。糖尿病のためか、糖エネルギーが効率よく代謝できなくなっていたと思われます。糖質制限で脂肪をメインエネルギーにしてからは20年以上、前の持久力に戻りました。
    スキーなどの激しいスポーツではなくても、ただ歩く程度の運動でもケトン体値が高い時は非常に楽に歩けます。足が勝手に前に出る感じになります。
    糖エネルギーは糖尿病でうまく使えなくなると言う利用上の限界がありますが、脂肪酸代謝やケトン体にはその様な老化現象などに伴う利用限界があるのでしょうか。
    少なくとも糖エネルギーよりは、人生において長く効率よく利用可能なように感じられるので、心臓のみならず、全身のエネルギーとしてこちらを主にする方が自然ではないかと感じます。

    • しらねのぞるば より:

      > 持久力

      これは私も感じています.
      糖質制限に切り替えてからは,山登りをしていても,ガス欠状態になって いわゆる『膝が笑う』ことはなくなりました. 目の回るほどの空腹感というものもなくなりましたね.
      高血糖にならないし,低血糖にもならないということだろうと思っています.