新薬は更に登場するか

日本糖尿病学会が 2020年12月に発行した『糖尿病専門医研修ガイドブック』という分厚い書籍があります.

(C) 日本糖尿病学会

これから糖尿病専門医をめざす医師のための教科書です.専門医となるには,ここに書かれていることはマスターしてもらいたいという情報を網羅してありますが,目次を見ればわかるように内容は膨大です. このガイドブックの内容については この記事で感想を述べました.

新薬候補

このガイドブックは専門医養成のための教科書ですから,情報が古くては意味がありません.発行時点での最新情報を掲載しています.そして p.248には『開発中の経口血糖降下薬』として下記の5つの新薬候補が 簡単な説明と共に挙げられています.

  1. 経口GLP-1受容体作動薬
  2. イメグリミン
  3. グルコキナーゼ活性化薬
  4. 11β-HSD1阻害薬
  5. グルカゴン受容体拮抗薬

(1)は従来 注射薬しかなかったGLP-1受容体作動薬(商品名:ビクトーザ,バイエッタ,オゼンピックなど)を,普通の薬のように経口薬としても服用できるようにしたものです.これは商品名『リベルサス』として既に実用化・販売されました.

(2)のイメグリミンも.商品名『ツイミーグ』として 2021年9月に発売されました. イメグリミンの投与症例は,今年の日本糖尿病学会でも投与症例がいくつか報告されたので,本ブログでもこの記事で紹介しています.

(3)のグルコキナーゼ活性化薬については,この記事以下のシリーズでまとめました. 血糖値を下げる効果は十分すぎるほど確認されています. 実用化一歩手前の段階ですが,今後は副作用(低血糖,中性脂肪増加傾向など)をどこまで押さえ込めるかが分かれ目になるでしょう.

また(5)のグルカゴン受容体拮抗薬は,この記事でも紹介したように,目論見通り血糖値を速やかに下げる効果は確認されました. しかし糖尿病薬としての実用化は断念されました. なぜなならば,グルカゴンは何も血糖値を上げるだけの悪者ではなくて,人体全体のエネルギー配分を調節する司令塔という重要な役割を果たしていたのです.そのグルカゴンの作用をこの薬により妨害してしまったので,みるみる脂肪肝が増加するというとんでもないことが起こったからです.

残る1つは

こうしてみると,学会が『糖尿病専門医研修ガイドブック』を発行した2020年12月時点で,将来有望として紹介されていた5つの薬剤のうち,2つは既に実用化,1つは開発中止,もう1つは実用化目前という段階に至っています.

では残る1つ,(4)の『11β-HSD1阻害薬』はどうなったのでしょうか?

『11β-HSD1阻害薬』とは11βヒドロキシステロイド脱水素酵素阻害薬 (11βHydroxySteroid Dehydrogenase type I inhibitors)のことです.

『ステロイド』という言葉が入っていることから おわかりの通り,これはホルモンに関する薬剤です. 糖尿病薬というよりは,広く肥満などのメタボリック症候群(いわゆる『メタボ』)の治療薬として期待されているものです.

この薬も文献を集めてみると,かなり有望そうではあります.

ですが,別途記事にまとめるかどうか 只今思案中です. というのも,生化学知識ゼロのそるばが,グルコキナーゼという酵素を理解するのにも熱が出るほど難しかったのに,ホルモンとなると もう本当にややこしいからです.

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