第65回日本糖尿病学会の感想[17] 総括

【この記事は 第65回日本糖尿病学会 年次学術集会に参加したしらねのぞるばの 手元メモを基にした感想です. 聞き間違い/見間違いによる不正確な点があるかもしれませんが,ご容赦願います】


5月12~14日に神戸で第65回 日本糖尿病学会 年次学術集会が開催されました. 会場開催はこの3日間だけでしたが,その後6月1日~7月11日まではWEB公開もあったので,興味のある講演・学会発表のほとんどを視聴できました.

視聴した講演・発表は,なんと約180本! 参加登録料は 15,000円(非会員;早期申込)でしたから,1本あたり83円で聴けたことになります. これはお得ですよ,奥さん<誰
1年間の 新聞購読料やNHK受信料のことを思えば,糖尿病について これほど効率的で密度の濃い情報収集法は他にないでしょう.そこで,今回の学会参加で得られたことの純粋な感想を述べてみます.

食事療法

そもそも私が素人の分際で 学会にも参加してみようと思ったきっかけが,学会の推奨する食事療法に疑問を抱いたからです.糖尿病学会に野次馬参加してみてわかったのですが,実は学会内内部でも,『食品交換表』が本当に『理想的な糖尿病食事療法』なのかどうかで揉めているところでした.当時は『糖質制限食など祈祷まがいの民間療法だ』という声が 特に学会重鎮の間で強く,学会会場内では『糖質』という言葉さえタブーで『炭水化物』と言わなければならない時代でした.ところが年を追うごとに『炭水化物60%を 患者に一律に適用するのは やはりおかしい.もっと柔軟にすべきだ』という意見が優勢になり,2019年10月に学会が発行した『糖尿病診療ガイドライン 2019』 では,『糖尿病患者に 一律・機械的に画一的な食事指導は不適切であり,患者ごとに個別化されるべきだ』と方針転換しました.

私は このガイドラインを見て,これでケリがついたと思ったのですが,どういたしまして,それから3年近くたった現在でも,『食事療法を個別化しろというが,具体的にどうするのだ. ガイドラインがないではないか』と,新たなテーマで もめています.

たしかに 病院で糖尿病患者に提供する,いわゆる『病院食』では問題になるでしょう. 『どんな状態の患者であっても,糖尿病なら無条件・一律にこの食事』という従来のガイドラインは,病院にとってはまことに都合がよかったのです. しかも 従来の糖尿病食は [丼に山盛りの白飯]+[少量の薄味の副菜]ですから,コスト的にも安かったのです. それを【個別化】で患者一人一人にそれぞれ違うメニューの糖尿病食を調理しなければならないといわれたら病院経営が成り立ちません.

【食事療法の個別化】という総論は打ち出したものの,具体策がゼロ,これが現時点の状況です.

この行き詰まり状況を打開するために,データ栄養学の権威:東大の佐々木敏教授は 今回学会のシンポジウムでこういう提案をしていました.

【食事療法の個別化】とは,食事メニューや摂取栄養素を微に入り細にわたって【個別化】することではなく,栄養指導を【個別化】していけばいいのだ

第65回 日本糖尿病学会 シンポジウム28-1

たしかに,これは現実的な提案であり,2024年に発行予定の新ガイドラインはこうなるかもしれません.あるいは既に『糖尿病診療ガイドライン 2024』では こうすることが決定していて,今回 学会講演という形で 会員の反応を探ろうとしたのかもしれません.

運動療法

運動療法に関する教育講演は,これまでの学会でほぼ毎回 行われてきました. 私も1,2回聴いたことはありますが,毎回ほぼ同じ内容なので 最近はパスしていました.

しかし,今回は教育講演とシンポジウムとで,かなりのボリュームがあったので両方を聴講しました. これまでと少し違うなと感じたのは,運動療法の必要性を強調するだけでなく,過度な運動の危険性も警告していた点です.しかも シンポジウムではなく,糖尿病専門医向けに教科書的知識を解説する『教育講演』で行った意義は大きいでしょう.

実は 糖尿病専門医であっても,運動療法に詳しい人はほとんどいません. 食事療法ですら,医学生時代にほとんど教育を受けていないのですが,運動療法に至っては医学部での教育はゼロです. だいたい 医師自身が『運動どころかメシを食う暇もない』のが実情ですから,患者の運動指導などできるわけがありません.

そこで 登場するのが スポーツ医学の専門家です.たしかに スポーツが肉体に与える効果については誰よりも詳しいでしょう. ところが,スポーツ医学の専門家の手元にあるデータは,ほとんどの場合 若くて健康な学生を対象にしたものです. なにしろ『スポーツ』医学ですからね. 糖尿病患者の治療はおろか,診察すらしたことがない人ばかりでしょう. そういうわけで,こういう専門家は口を開けば『筋肉』そして『グリコーゲン』だけです.ですから ほとんどの場合 こういう三段論法です.

  • 筋肉が活動するにはグリコーゲンが必要
  • グリコーゲンは糖質から作られる
  • だから糖質制限をすると筋肉が減る

糖質を摂ると血糖値が上がろうが下がろうが,こういう先生方にとっては 『些末なこと』なのでしょう.しかも彼らが注目しているのは 速筋だけです.内臓平滑筋や心筋など,24時間休みなく動いている不随意筋は,脂肪酸やケトン体をエネルギーにしているのですが,これらの筋肉はまるで眼中にないようです.

イメグリミン

昨年10月に発売された イメグリミンの実臨床での投与症例がポツポツと報告され始めました. しかし発売後 ただちに イメグリミンを投与された患者がいたとしても,まだ数ヶ月しかたっていませんから,この薬の実力はまだ不明です. 数少ない 投与症例では,イメグリミンは投与直後にはほとんど効果はみられず,数ヶ月かけてじわじわとHbA1cが下がると報告されていました. これがイメグリミンの本質的な特徴なのか,それとも ただの偶然なのかは,もう1年 すなわち次回学会まで待たないと判断はできないと思います. ただし効果が見られた患者については,治験データとほぼ同程度でした.

また,イメグリミンの作用機序として提案されているミトコンドリアの機能改善が事実なら,ミトコンドリア糖尿病への効果は期待されます. これも 今後の注目点でしょう.

コンピュータ

『蛋白質のアミノ酸配列データさえ分かっていれば,その立体構造まで計算してしまう』,しかも 『化学物質と蛋白質の構造から,最大の効果を発揮する薬の化学構造まで予言してしまう』という, in Silicoには 心底驚きました. 反面 『化学者が偶然合成した化学物質が 全く新規なガンの特効薬であった』というロマンは もうありえないのだなと,元化学屋としては多少 寂しくもなりました.

神戸メシ

ランチョンセミナーで出された 久しぶりの神戸メシは どれもおいしいものでした.これは 神戸ポートピアホテルが調理したランチョン弁当です.

次回 第66回学会は 鹿児島で開催されます. もちろん 参加します.

第65回日本糖尿病学会の感想【完】

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