第57回 【糖尿病学の進歩】の感想-5 脳にもヒビくGLP-1受容体作動薬

【この記事は 第57回 『糖尿病学の進歩』を聴講した しらねのぞるばの 手元メモを基にした感想です. 聞きまちがい/見まちがいによる不正確な点があるかもしれませんが,ご容赦願います】

GLP-1受容体作動薬(以下 GLP-1RA)は,GLP-1受容体を『騙して』,あたかも大量のGLP-1が膵臓β細胞に来たかのように勘違いさせて,インスリン分泌を刺激する

というのが前回記事 でした.

ところで,GLP-1RAを開発中に 妙な現象が発見されました.

Szayna 2000

遺伝的に肥満傾向を示す Zucker種のラットに 開発中のGLP-1RA(後のエキセナチド)を投与したら,

(C) CB さん
Szayna 2000

餌を食べる量がガクンと減り(図下),そして当然ながら体重が急に減ったのです(図上).

このラットが たまたま誰かに片思いして メシも喉を通らなくなった..のではなく,何度も多くのネズミで実験してみてもやはり食欲の減退が見られたのです.

この時点で GLP-1RAは,一挙に糖尿病薬のホープに躍り出ました. 欧米では『糖尿病』=『肥満』とほぼ同義語ですから,血糖値を下げるだけでなく,さらに食欲も下げて体重減少を招くのであれば一石二鳥の糖尿病薬となるからです.

なぜこんなことが起こるのか,当然 詳細に原因が追究されました.その結果;

Sisley 2014

脳中枢の(糖代謝を司る神経領域ではなく)食欲を左右する神経部位にもGLP-1受容体が存在しGLP-1RAはこの神経系にも作用して食欲を減退させていたのです.

このことは,脳中枢の食欲神経系のGLP-1受容体だけをノックアウトされた(=遺伝子操作で作れなくした)マウスではGLP-1RAを投与されても食欲は衰えないことで証明されました.

つまり,小腸から分泌されて膵臓β細胞を刺激するだけと思われていたGLP-1は,遠く離れた脳にも働きかけていたのです.

しかし,これは生体の反応としては,当然かもしれません. 食物が次々と消化管に送り込まれてきたら,とりあえずその栄養を吸収・同化するためにインスリン分泌を促進する一方で,『そろそろ満腹だから 食べるのをやめて』という信号を脳に送るのは当然だからです.
この記事にも書きましたように,ホルモンというものは 決して単機能ではなく,一つのホルモンが全身のあちらこちらに同時に働きかけて調和をとっているのですから.

[続く]

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