働き者の腎臓
腎臓は 体内で生じた老廃物を尿として排泄してくれる,大事な掃除屋さんです.腎臓は365日年中無休,しかも毎日が 24時間勤務というブラック環境です.
上図の糸球体は細かい血管がビッシリと球状に詰まったものです.糸球体は 目の粗いふるいのようなもので,ここで血液に溶けている分子サイズの小さいものやイオンをまず捨ててしまいます.残るのは赤血球,蛋白質といった『大きな分子』のみです.
赤血球を取り除いたので,糸球体のふるいを通過した液体は,もはや赤くはないので『原尿』と呼ばれます.しかし,この糸球体の濾過で話は終わりではありません.なぜなら糸球体で捨てられたものの中には,ナトリウム・カリウムなどのイオン,グルコース(血糖),アミノ酸などといった人体に必要なものが多いからです.
そこで,原尿から必要なものだけを拾い集める作業が必要になります. リサイクル工場で,回収するものと廃棄するものとに ゴミを分別する作業と同じです.
近位尿細管
糸球体で おおざっぱに小さなものを捨てる【濾過】工程,そして そこから必要なものだけ拾い集める【再吸収】工程,後者を行っているのが 尿細管(近位尿細管と遠位尿細管)です.しかし,この工程は複雑です.
なぜならば,原尿に溶けているものから,必要なものだけ(=ナトリウム・カリウムなどのイオン,グルコース(血糖),アミノ酸)を取り出し,それでいて 同じく原尿に溶け込んでいる不要な老廃物(クレアチニン,尿素,アンモニアなど)は,間違って拾わないようにしなければならないからです.
砂糖水から砂糖だけを取り出せと言われたらどうしますか? 虫眼鏡とピンセットでできる仕事ではありませんね. 尿細管には 拾いたいものだけを専用に通過させる穴(=特異性トランスポータ)がびっしりと配置されていて,それぞれナトリウムだけとか,グルコース(ブドウ糖)だけと言った具合に再吸収を担当しています. SGLT2阻害薬で有名になった SGLT2( Sodium-Glucose Co-Transporter) が典型的ですが, このように特異的に物質を選択して移動させるには,エネルギーが,すなわちATPが必要です.
そのため 腎臓,特に近位尿細管は大量のエネルギー(=ATP)をドカ食いします.ところが,そのエネルギー源としてグルコースには頼らずに,もっぱら脂肪酸のβ酸化と肝臓からのケトン体に頼っています.
これは どこかで聞いた話ですよね?
そうです,この状況は 心臓と同じです. だからこそ,心臓と腎臓は ケトン体の大口ユーザなのです.
そして 弱った心臓が,最後に頼れるものがケトン体であるのと まったく同様に,腎機能が低下すると,腎臓はケトン体に頼るようになります.
脳は死んでも,心臓・腎臓が動いていれば,人体は生きています.しかし その逆はありません.
したがって,肝臓はせっせとケトン体を作り続け,しかも自分自身では使わずに,生命の維持に絶対に必要な心臓と腎臓の最後のよりどころのために送り込んでいます.
本当に ケトン体は 毒物なのでしょうか?本当に ケトン体は 脂肪の燃えカスなのでしょうか?
[11]に続く
コメント
>本当に ケトン体は 毒物なのでしょうか?本当に ケトン体は 脂肪の燃えカスなのでしょうか?
エネルギーとして糖を利用するとその過程で乳酸ができ、脂肪を利用した場合はケトン体ができますが、どちらもまだエネルギーを取り出せるので最終代謝物として排泄されず、再利用されます。
そしてどちらも過度に産生されると乳酸アシドーシス、ケトアシドーシスになりますが、なぜケトン体だけが、極端に忌み嫌われるのでしょうかね。
周期性嘔吐症(自家中毒)と言う子供の病気があり、ケトン体の検出が確定診断です。治療として炭水化物を投与してケトン体を産生しないようにするのですが、症状が改善せず嘔吐を繰り返すことが多いそうです。これなどは典型的にケトン体を忌み嫌ったため、原因と結果を取り違えた誤診だと思っています。何らかの原因(炭水化物の拒絶?)で嘔吐し、エネルギー不足を補うためにケトン体が産生されていると私は考えています。
「過ぎたるは猶及ばざるが如し」←私の座右の銘
何事にも適量と言うものがあり、過度に産生された場合に毒性を示すと言う事だと思いますが、インスリンを投与しなくてよい程度に自己分泌があればめったなことでケトアシドーシスにはならないでしょう。と思います。
>なぜケトン体だけが、極端に忌み嫌われる
どちらのアシドーシスも Doctors Running(一刻を争う)事態ですが,その発生頻度なのでしょうね.
次回 第65回 日本糖尿病学会の症例報告を見ると;
一般口演
https://site.convention.co.jp/65jds/wp/wp-content/uploads/2022/04/ippan_01.pdf
及び
ポスター発表
https://site.convention.co.jp/65jds/wp/wp-content/uploads/2022/04/ippan_02.pdf
ケトアシドーシスに関する報告は15件;
1-14-1
1-21-1
P-18-5
P-43-6
P-44-4
P-46-1
P-57-1
P-58-1
P-63-3
P-67-2
P-67-6
P-80-6
P-81-4
P-83-4
P-83-7
一方 乳酸アシドーシスはたった1件です.
P-7-3