ラプソディー Rhapsodyとは日本語で『即興狂詩曲』と訳されます.
ラプソディー・イン・ブルー(Rhapsody in Blue)は,1924年 ガーシュウインによる名曲です.
これにあやかったのでしょう. 欧州の官民共同機関IMI(Innovative Medicines Initiative;革新的医療推進機構)という組織が,糖尿病の治療を根本的に強化するために RHAPSODYというプロジェクトを推進していることをこの記事で紹介しました.
RHAPSODY プロジェクトは2型糖尿病の一人一人に最適の治療法を確立することを目指しています.
そのRHAPSODYプロジェクトでは 最近の成果が続々と出つつあります.
『2型糖尿病という単独の病気は存在しない. それはいくつかの相互に異なる糖尿病を区別できずに,まとめて そう呼んでいるだけだ』 という,スウェーデンのAhlqvist博士が2018年に発表した論文は世界に衝撃を与えました(日本の学会はほとんど無視していますが).
RHAPSODYプロジェクトは,このAhlqvist説の更に詳細な検討を進めています.
Ahlqvist博士は,複数の医学的指標を用いて糖尿病患者をData-driven Cluster Analysis『データ駆動型クラスタ分析』という手法で分類すると,従来2型糖尿病と呼ばれていた人は 実はいろいろな病態が混在している,と主張しました.
この発表直後から,世界の糖尿病医学研究者により多くの賛否両論が出されたのですが,中でも 臨床医から出された異論でもっとも多かったのは;
HOMA2-β や HOMA2-IR は通常の糖尿病診療では ほとんど使うことはない
というものでした, たしかにこの二つの指標は 空腹時インスリン値測定や 糖負荷試験(OGTT)を行わないと得られません.世界でも日本でも 最近はほとんど糖負荷試験を行っていませんから.
そこで RAHPSODYプロジェクトでは,Ahlqvist分類をもう少し一般診療で使いやすくできないかを検討しました.
具体的には;
- HOMA2-β = インスリン分泌能の指標 → (空腹時又は随時)C-ペプチド
- HOMA2-IR = インスリン抵抗性の指標 → HDL
で代理させるというアイデアです.C-ペプチドやHDLであれば,世界中どこの国でも よく検査されています.つまり「使いやすい指標」です.
そして,これらの指標を用いて 改めて3つの糖尿病大規模データベースの膨大なデータ(=15,940人の患者データ)をクラスタ分析してみるとこうなりました.
Ahlqvist分類では 従来2型糖尿病と呼ばれていた人は,実は4つの相互に異なる糖尿病の混在であるとしていたのですが,RHAPSODYはそれが5つに分かれることを見出しました.
HDLを分類指標に加えてみたら,実は飛びぬけてHDLが高い新たな集団(=MDH)が見つかったのです.
Ahlqvist分類では HDLを指標に取り入れていなかったので,MDとMDHとの区別はできていなかったようです. そのため Ahlqvist分類のMARD(加齢性軽度糖尿病)は特徴があるような ないようなあやふやな存在だったのですが,MDHのユニークな特徴により 更に分類が明確になりました.
SIDDがインスリン分泌能を早期に失い,HbA1cの悪化がもっとも早いこと,SIRDは一見 HbA1cが優良そうに見えても 急速に腎機能が悪化して透析に至るリスクが高い,などと言った 特徴はAhlqvist分類でも RHAPSODY分類でも同じでした.
注目すべきことは,このRHAPSODY 新分類は,異なる三つの大規模データベース(DCS:オランダ, GoDARD:英国, ANDIS:スウェーデン)で検証しても,上図の通り よく一致していた点です.
そして何より 新たに見出されたMDH(Mild Diabetes with High-HDL)の特徴は驚くべきものでした.
『インスリン治療が必要になるまでの期間』が 飛びぬけて長い,つまりHbA1cの経年的な上昇(=悪化)がもっとも緩やか,という特徴を持っていたからです.
いったい このMDHとはどういう「糖尿病」なのでしょうか?
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