学会の動き

私が旅行中に 学会関係でいくつかトピックスがありました.

日本糖尿病学会

投薬アルゴリズム改訂

日本糖尿病学会は昨年9月に『2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム』を発表しました

このアルゴリズムでは,同じ2型糖尿病でも,肥満の人(=インスリン抵抗性が主体)とそうでない人(=インスリン分泌不全が特徴)とでは 用いる薬剤の選択優先順位が異なるとしています.

肥満の人には ビグアナイド(メトホルミン)やSGLT2阻害薬が,また肥満でない人にはDPP-4阻害薬をまず使用するよう推奨しています.

今回の改訂は,大きな変更ではなく,上記の肥満の人に推奨する薬物に GIP/GLP-1受容体作動薬(デュアルアゴニスト)の『チルゼパチド』を追加した点(赤 囲み部)です. 臨床試験では 強力な体重減少効果が確認されているので,これは妥当な判断でしょう.

2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム(第2版)
薬が足りない

もう一つの学会アナウンスは,『糖尿病薬が足りないっ!』という叫びです.
上記とも関連するのですが,GLP-1受容体作動薬やチルゼパチドは,肥満型糖尿病におけるインスリン抵抗性を改善するための薬ですが,体重減少効果が確認されています. これは 肥満→インスリン抵抗性増大→血糖値/HbA1c悪化 という流れを断ち切るには望ましい効果です.

ところが糖尿病患者ではない人に対して,これらの薬の『体重減少効果』を『痩せ薬』と吹聴して,自由診療で投与する美容クリニックが多くなったため,これらの薬が本当に必要なところに回ってこなくなっているのです.

美容クリニックでは 保険診療ではない自由診療なので,いくらでもボロい『治療費』を請求できますから,おいしい商売になっています.したがってこれらのクリニックでは,金に糸目をつけずに GLP-1受容体作動薬を買い漁り,これが品不足を引き起こしているようです.

この状況に厚労省は,製薬会社や医薬品卸売会社に対して,医療機関への納品を優先してもらいたいと依頼しています.

GLP-1受容体作動薬の在庫逼迫に伴う協力依頼(その2)

『協力依頼(その2)』とあるように,この厚労省通達はこれが初めてではありません.

この『痩せ薬としてGLP-1受容体作動薬を使う』という現象は日本だけでなく,世界中で発生しているので,製薬会社の増産も追いつかないようです.

メディカルトリビューン掲載のこの記事では(全文閲覧には無料の会員登録が必要です)

減量目的のGLP-1作動薬で膵炎リスク9倍|糖尿病・内分泌|薬剤情報|医療ニュース|Medical Tribune
糖尿病治療薬のGLP-1受容体作動薬を減量目的で使用する例が近年増加している。糖尿病に対するGLP-1受容体作動薬の使用が胆道疾患、膵炎、腸閉塞、胃不全麻痺など消化器系有害事象のリスクを高めることが報告されているが、減量目的での使用につい

糖尿病治療目的ではなく,減量が目的でGLP-1受容体作動薬を使用した場合,肥満治療薬であるnaltrexone/bupropion【★】に比べて膵炎発生リスクが9倍にもなると警告されています. よって これらの薬を望む人に(早く痩せようとして)大量に投与した場合には かなりの危険を伴うのですが,こんな警告など当事者にとっては耳に入らないのでしょうね.

【★】これらの肥満治療薬は日本では使われていません.

日本病態栄養学会

日本病態栄養学会とは,主に管理栄養士と病態栄養専門医が加入している学会です.

我々糖尿病患者にとって,食事療法は重要ですが,この学会では ,高血圧・高脂血症・糖尿病などの食事療法に比重が高い疾病の食事療法に関する講演・症例報告が多数あります.
この学会の次回 第27回年次学術集会開催がアナウンスされました.

開催概要|第28回日本病態栄養学会年次学術集会

上記HP案内の通り,会場は例年通り 京都国際会館にて2024年1月 26-28日に行われます.非会員の参加費用は 20,000円と,決して安くはありませんが,得られる情報の質と量を勘案すれば モトはとれますので,ぞるばは参加します.

また 私が注目している『日本糖尿病学会は 食事療法をいったいどうするつもりなのか』についても,この学会での日本糖尿病学会幹部の講演を聞いていれば ある程度推測できるので,これも参加の目的であります.

今回は 会場に赴かなくても,会期終了後 ほぼ全内容[※]が WEBでオンデマンド視聴できるようなので『お買い得』です.

[※] 『ほぼ全内容』=上記HP案内の通りです.これを見ると,ポスター発表だけは WEB配信されないようです.

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