ケトン体は『飢餓時だけに生成される非常エネルギー』なのか[7]

前回記事にも書いたように,前日の夕食から翌日の朝食 までの 飢餓状態とはいえないような短時間の絶食でも,血中ケトン体は上昇します.私は特別厳格な糖質制限食をしているわけではありませんが,それでも前日の糖質摂取が少なかった翌朝は,血中ケトン体(の内のβ-ヒドロキシ酪酸)が 0.3~0.4 mmol/dlまで上がることはあります.

それでは どれくらいの絶食時間でどれくらいケトン体濃度になるのでしょうか?
下図は 成人の絶食時間と血中ケトン体濃度との関係です.

Cahill 2006 Fig.6を翻訳

絶食が数時間を越えたあたりからケトン体濃度の上昇がみられます.前日の夕食から翌日の朝食まで,つまり 飢餓状態とはいえないような短時間の絶食でも,血中ケトン体は上昇しするのです.

24時間 のべつまくなしに食べ続けている人でない限り,食事と食事の間は絶食時間であり,その間をケトン体エネルギーで補完するのは正常な代謝反応です.

日本人も江戸時代中期までは,庶民は 1日2食でした.当時の『絶食時間』は今よりも長かったのです.だからといって,江戸の町民はみな 午後になると低血糖でバタバタ倒れていたのでしょうか.そんなわけはないですね.ケトン体で動いていたのです.

もしもリブレのように,血中ケトン体濃度を連続的に測定する計器があれば,一日のうちでもケトン体の濃度が変動しているのは観測できるでしょう.

新生児はケトン人

なお 『このケトン体が上昇し始めるまでの絶食時間』は 実は年齢によっても大きく異なります.

Cahill 2006 Fig.6を翻訳

新生児から成人まできれいに年齢順に並んでいます.特に生まれたばかりの新生児の血中ケトン体濃度は約 0.5mMととんでもなく高い値です.しかもわずか2時間の絶食[★]で,24時間絶食した成人よりも更に高くなります.

[★] 新生児~小児で 短時間の絶食データしかないのは,子供に断食をさせるわけにはいかないからです.

なぜそうなるのか? それは胎児は究極の糖質制限で育ってきたからです.心臓は 変動が激しくてあてにならないブドウ糖に頼るよりも 滅多に枯渇しないケトン体に頼っています.直径 0.1mmの受精卵が 10か月で体重3kgの新生児にまで,急速に成長しなければならない胎児は,ケトン体で成長する方が確実だからです.

これは成長途中の 乳児~子供でも同じで,成長するために激しくカロリーを消費します.

10歳未満の子供の体重当たりのカロリー消費量は,なんと成人の3倍に近いのです.『食べ盛り』という言葉はそれを言い当てています.

なお 子供,特に幼児の体臭を『乳臭い』と表現することがありますが,比喩ではなくて 実際にケトン体濃度が高いからでしょう.

みんなケトン体のおかげで大きくなったのです.大恩を忘れてはいけません.

[8]に続く

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