加齢と糖尿病[7完] 加齢にはメトホルミン

糖尿病の人では,すべての人がテロメア長が短くなるのではなくて,Ahlqvist分類の4種の内,MARD(Moderate Age-Related Diabetes:軽度加齢性糖尿病★)だけでした. 他の3種( SIDD,SIRD,MOD)の人にはテロメア長短縮がみられませんでした.

細胞染色体のテロメアが,老化のバイオマーカー(生体指標)であるのなら,この結果は納得できます.
過去の研究では これら4種をまったく区別せずに,一つの『2型糖尿病』として取り扱っていたので,結論があやふやになってしまっていたのでしょう.

★『軽度加齢性糖尿病』: 私はこれを『単純加齢性糖尿病』と訳すほうが適切と思っています.

もう一つの注目点

Ahlqvist分類で考えたら,糖尿病とテロメア長との関係が明らかになった

この成果だけでも刮目すべき この文献ですが

実は もう一つ驚くべきことが書かれていました.というか,この報文の意義はこちらのほうにあります.

この調査の対象者 246人は全員糖尿病患者ですから,過去3か月以上 何らかの糖尿病薬を服用していました.そこで,4種の糖尿病パターン別に,メトホルミンを飲んでいた人と,まったくメトホルミンをのんでいなかった人とに分類して,そのテロメア長を比較したのです. その結果がこちらです.

各グラフで,縦軸はテロメア長,横軸はメトホルミンを服用していたか/いなかったか を表しています.

ご覧の通り,MARDであっても,メトホルミンを服用していた人はテロメア長が短くなっておらず,他の3種の糖尿病(MOD,SIRD,SIDD)と同じでした.つまり,MARDで,かつメトホルミンを服用していなかった人だけが,テロメア長が短かったのです.これは年齢などを調整した後ですから このメトホルミンの効果は有意です.

メトホルミンにアンチエイジング効果があるのではないかとはよく言われています.この報告は人数も少ないので,これだけで確定的とまでは言えませんが,それを実際のデータで補強しています.

日本は周回遅れ?

この中国の研究に限らず,世界では Ahlqvist分類を単なる仮説ではなく 確立されたものとして『2型糖尿病は1種類でない』ということを前提にして,既に多くの研究が始まっています.

4種類の『2型糖尿病』が,それぞれ原因も病態も合併症も違うのであれば,それぞれに最適の治療法・最適の治療薬が必ずあるはずで,それを真っ先に見つけようという競争が始まっているのです.

一方日本では 欧米流に『肥満』=『インスリン抵抗性』が糖尿病のすべてという立場が主流を占めています.ただし,さすがにそれだけでは BMI=22以下の痩せた人の糖尿病の説明ができないので,どれだけ痩せていようと それらはすべて内臓脂肪による『かくれ肥満型糖尿病』なのだという,かなり無理筋を押し通しているようにみえます.

しかし,Ahlqvist説では,一見同じような肥満型糖尿病と見えても,MODとSIRDとは,糖尿病の進行,とりわけ腎機能合併症の転帰は全く異なるとしています.またSIDDには痩せ型が多いと分類しています.


糖尿病とテロメア長の関係を調べていたら,ここでもAhlqvist分類に遭遇しました.ADAが採用しないと日本の学界も変わらないのかもしれませんが,『第55回 糖尿病学の進歩』講演会では Ahlqvist分類に注目すべきだという意見も出ています. 今後の動きに注目しています.

加齢と糖尿病【完】

コメント

  1. 西村 典彦 より:

    メトホルミンが長寿をもたらすことは「LIFE SPAN(デビッド・A・シンクレア著)」にも書かれています。
    メトホルミンがテロメアを伸長するかについては言及していなかったと思いますが、もしそうならメトホルミンは、テロメアを伸長する酵素(テロメラーゼ)を活性化することが考えられます。
    しかし、テロメラーゼは癌化の原因を作る物質としても認知されており、がん治療薬としてテロメラーゼ阻害薬の開発が試みられているようです。
    この相反する薬効をどう考えればよいのでしょう。
    メトホルミンで癌化が進むことはないのか、疑問が解けません。

    • しらねのぞるば より:

      >メトホルミンがテロメアを伸長するか

      テロメアを伸長するテロメアーゼは,ヒトでは生殖細胞・幹細胞・ガン細胞以外では活性がほとんどないようです.この報文が調べているのは白血球細胞なので,テロメアーゼの関与はないと思われます.
      またMARDでメトホルミン服用者でも,他の糖尿病よりもテロメアが長かったというわけではない,つまり『人並み』でしたから,ここでみられた効果は,アンチエイジング anti-agingというよりも,単に老化速度を遅らせた スローエイジング slow-agingだと思います.

  2. 西村 典彦 より:

    >単に老化速度を遅らせた スローエイジング slow-aging

    メトホルミンの効果がスローエイジングだとして、加齢による糖尿病への効果も同様と考えれば、発症や悪化を先送りする効果であると言う事なのでしょうか。
    天寿を全うするのと糖尿病が悪化するのとどっちが速いか、天寿を全うした時にどの程度悪化を遅らせることができたかと言う事になるのでしょうか。
    確かに「LIFE SPAN(デビッド・A・シンクレア著)」によれば長寿には少食であり、メトホルミンにはそれと同じ効果があると書かれています。
    長寿をスローエイジングと考えれば、メトホルミンの効果はスローエイジングという事になります。

    スローエイジングをテロメアの短縮を抑える=細胞分裂を抑えることで得られる効果と考えれば、できるだけ細胞を劣化させない生活習慣が長寿につながると言えます。
    細胞の劣化は酸化と糖化によるものが多くを占めていると思われますから糖質の過剰摂取や過剰な運動による酸素摂取を抑える生活習慣が長寿につながると言えそうです。
    そして加齢による糖尿病にも良い効果を得られそうですね。

    • しらねのぞるば より:

      >メトホルミンにはそれと同じ効果

      メトホルミンは細胞ミトコンドリアの呼吸代謝を抑制すると言われているので,つまりはエンジンのアイドリング回転数を落として,トロトロと走らせるということなのでしょうね.
      反対に 日常的に激しい運動を行っている人のテロメアは有意に短かったのですから,こちらはミトコンドリアフル稼働なのでしょう.ただ 激しい運動は 一方で呼吸・循環機能を活性化するでしょうから,トータルの老化は そのバランス次第でしょうか.