食事の脂質と食後血糖値[6]考察3

コンソメスープとマッシュポテトだけの食事,(日本風に言えば マルコメの味噌汁とサトウのご飯だけ) ほぼ100%炭水化物という食事に 脂質を追加すると,血糖値・インスリンがどう変化するのかを調べた実験結果を考察しています.

前回記事では,スープにマーガリンを加えておくと,マッシュポテトが胃から排出し始める時刻が大幅に(約80~90分)遅くなること,しかし 一旦 排出が始まれば 脂質がない場合と同じ速度で胃から出ていくことが見出されました.

なぜ,こうなるのでしょうか?

予め腸に脂質を注入してみると

実はこの現象は1984年に初めて報告されていました.この文献です.

Gastroenterology

ボランティアを募って行われた実験ですが,口から腸まで細い(外径~2mm)ビニールチューブを飲み込んでもらい,このチューブを通じて,予め 油脂乳剤 Intralipid[※]を腸に流し込んでおくと,マッシュポテトを食べても,胃からの排出開始が大幅に遅れることが見出されていたのです[下図].

(C) 白いねこねこ さん

[※] Intralipidとは
日本での商品名はイントラリポスなど.
点滴を行えるのは通常 水溶液だけです. つまり水に溶けないものは点滴できません.そこで水と油脂(大豆油など)を乳液状にして,点滴できるようにしたものがIntralipidです.
患者が極度の栄養虚脱状態にある時などは高カロリーの栄養を点滴する必要がありますが,ブドウ糖点滴では大量又は高濃度の点滴となってしまいます.しかし,Intralipidのような油脂乳液であれば負荷をかけずに高カロリー点滴が可能になります.

胃から排出される時間が遅れたため,結果として消化吸収にも時間がかかっています. (下のグラフ=呼気中の水素濃度増加は,ポテトの消化・吸収が行われたことを反映しています)

著者は このような現象が起こるメカニズムは不明だとしていますが,小腸に脂質が存在している間は,脂質の吸収で消化管が過負荷になっていることを何らかの経路で信号伝達して、胃からのさらなる供給を停止させているのではないかと推測しています. 東急 田園都市線では毎朝おなじみの『前の電車が詰まっているため,この列車は鷺沼で時間調整のためしばらく停車します』というアレと同じです.

ということは

マーガリンを溶かしたスープを予め飲むと 後から食べたマッシュポテトの出発時刻が遅延したのは,脂質が腸に先回りしていたことが原因だったのです.前を行くコンソメとマーガリンの処理が終わり,信号が青になったので,時間待ちしていた胃の中のマッシュポテトが動き始めたのです. 実際 血糖値とインスリンの変化をみると;

たしかに 血糖値もインスリンも そのままの形で ただ時間だけが90分くらい遅れて進行しているようにみえます.

さて,そうなると ポテトにマーガリンを入れた第2の実験がやはり注目されます.

[7]に続く

コメント

  1. かかか より:

    とても面白い記事です。
    何を食べるかで、食べ順の効果も変わりそうです。

    • しらねのぞるば より:

      > 何を食べるかで、食べ順の効果も

      本来 それを科学的に解明していくのが 本当の栄養学だと思うのですが,日本ではなぜか情緒的に『バランスのいいものを ゆっくりと』 これだけですからね.