医学専門誌の食事療法の記事[4完] 2019年 最終記事

専門誌『公衆衛生』の糖質制限食特集記事の後半です.

(C) 医学書院

「糖尿病診療ガイドライン」におけるエネルギー摂取量の設定基準 [慈恵医大 宇都宮一典]

今年の仙台での糖尿病学会での宇都宮先生の講演[下記 参照]とほとんど同じなので割愛します.

糖尿病食事療法への教育における課題 [女子栄養大学 本田佳子]

糖尿病患者に適切な栄養指導する際の留意点をまとめた記事です.患者への食品栄養素の解説や,カーボカウント法の教育方法まではいいとして,

  • 「食品交換表」でバランスの取れた食事が可能になる
  • 食べ順を工夫して血糖値上昇が抑制できる

などと相変わらずの内容です.

民間健康雑誌の記事ならこれでもいいでしょうが,この記事でも紹介したように;

現在 日本糖尿病学会では「食品交換表」を根底から見直そうとしています.投稿する雑誌を間違えたのでしょうか.

AGEs生成を抑える食生活 [同志社大学 米井嘉一]

AGEs(糖化最終生成物)の有害性と,その体内蓄積を抑制する方法の解説です.概要は以下の通り;

  • Step1: 血糖スパイクおよびその代謝過程でのアルデヒドスパイクを抑える.そのためには糖質の過剰摂取,高脂質を避ける
  • Step2:AGEsの体内生成を抑える. そのためには抗酸化性成分や,ヨーグルト・短鎖脂肪酸を摂取する
  • Step3:蓄積したAGEsを分解させる.そのためにはローズマリーなど,AGEs分解作用のあるハーブなどを活用する.

なお,著者は 食べる段階ですでに食物に含まれているAGEsについては,態度を保留しています.「豆腐や味噌からAGEsを完全に除去したら,味も香りも劣化し,全く食に適さない」のだそうです.

特定保健用食品への期待 [国立健康・栄養研究所 阿部圭一]

いわゆる「トクホ」などの健康食品の解説です.糖質制限食とは直接関係がないので割愛します.ただ 国立健康・栄養研究所が公開している健康食品データベース HFNet は,

健康食品の安全性・有効性情報を,業者の宣伝ではなく 中立的な国立機関が掲載していますから,一見の価値はあります.健康食品は一定基準さえ満たせば認可されますが,必ず有効とは限りません. HFNetでは,有効性が疑問な成分については『~~の有効性が示唆されているが,それ以外の有効性は確認でできない』などと,ズバリと書いてあります.商品名でも成分名でも検索できるので とても便利です.

栄養成分と健康 [和洋女子大 白川海恋 古畑公]

食品分類法と最新の日本食品標準成分表の解説です.文科省の「日本食品標準成分表2015年版(七訂)+追補2018年」 のデータは膨大ですが,すべてPCにダウンロードしておいて,Accessや MySQLなどのデータベースソフトに全データを取り込んで検索すると便利です.

感想

どの記事もすでに学会講演などで報告されているものであり,内容的には 私にとっては目新しいものではありませんでした.それよりも,最初に書いたように,

糖質制限食がこれほど詳細に,医療分野ではなく衛生分野の専門誌に掲載される時代になったのか

という感慨が深いです.しかも『糖質制限食とは何か』などという初歩的解説は一切なしにです.そのような解説はもはや不要なほど,糖質制限食自体は読者が既に知っていて当然だからです.このような記事が出るようになったのは,10年前から見ると隔世の感があります.

今回紹介した『プラクティス』『公衆衛生』の両誌の特集記事は,このブログの簡単な紹介では書ききれないほど非常に内容が豊富です. 入手が困難かもしれませんが機会があればご一読をすすめます.

[新年は1月5日頃から更新再開予定です.皆様 よいお年を]

【2019 完】

コメント