【この記事は 第57回 『糖尿病学の進歩』を聴講した しらねのぞるばの 手元メモを基にした感想です. 聞きまちがい/見まちがいによる不正確な点があるかもしれませんが,ご容赦願います】
『第57回糖尿病学の進歩』では,運動療法に関する講演は何本かありましたが,特殊な適用範囲(高齢者向けなど)やコロナ禍での対応例などを除き,一般の糖尿病患者を対象としたものは 下記2件でした.
- 1L-1-8_糖尿病の運動療法Update
- 6L-1-7 効果的な運動療法を行うための指導ポイント
前者は専門医向けの指定講演で,運動に伴う 生理的・分子生化学的変化の学術解説であり,具体的な運動療法の方法と効果を述べたものではありません.
一方 後者は,糖尿病の人にどのように運動療法の指導をすべきかというテーマでした.
米国糖尿病学会(ADA)指針
後者の講演では,昨年11月に米国糖尿病学会(ADA)と欧州糖尿病学会(EASD)が合同で発表した,2型糖尿病の血糖値管理についての総合指針が紹介されていました.
この指針では,本人にかかわるあらゆる情報を連携させて,適切な意思決定を,本人と関係者全員とで行っていくことを求めています.
その中で 運動療法については こうまとめられていました.
用語にご注目願います. 運動療法ではなく,身体活動(Physical Behaviors)なのです. しかも24時間すべてが対象です.
特定の時間になったら,突如『さあ これから運動療法の時間だぞ!』ではなくて,夜間睡眠中も含めた24時間にわたる人体活動のすべてが対象です.もちろん 『汗をかく』(=有酸素運動)や,『レジスタンス運動』,つまり狭義の運動療法も取り上げていますが,『座り続けないこと』『よく歩くこと』なども重要であると述べています.
私見ですが,そもそも『運動』療法という言葉を用いるから,『バーベルを持ち上げたり 走ったりすることだけが,糖尿病の運動療法だ』と勘違いする人が出てくるのでしょう.
この記事でも取り上げたように;
運動することで心疾患が予防できると証明した 有名な このエビデンスは;
いわゆる『運動療法』の効果ではありませんでした. ロンドンのバス運転手と車掌とでは,勤務中 ずっと座りっぱなしの運転手よりも,揺れるバスの中で常に体を動かしている車掌の方が 圧倒的に虚血性心疾患の発症率が低かったのです. つまり 日常生活そのものの最中で体を動かすことが健康によいことを示したのです. 車掌は別に運動がしたくて この職業についたわけではありませんからね.
ところでこの講演『6L-1-7 効果的な運動療法を行うための指導ポイント』を行ったのは,北里研究所病院の山田 悟先生でした.山田先生から運動療法の講演を聞くとは意外でした.山田先生は,何年にもわたって 日本糖尿病学会で 学会推奨のカロリー制限食に対して 歯に衣着せぬ批判を行ってこられましたが,最近は食事療法については 発言しなくなりましたね. 一件落着したとみなしているのでしょうか.
第57回【糖尿病学の進歩】の感想 [完]
コメント