第64回日本糖尿病学会の感想[3] 05/21午前

学会2日目(5/21)の午前の感想です.

特別講演1 Ronald Kahn 博士

Joslin糖尿病センターの大御所 Ronald Kahn博士のこの講演は,今回学会の目玉でしょう.日本人向けにゆっくりと,しかしパワフルな口調で とても御歳77歳には見えませんでした.

(C)Joslin Diabetes Center

博士の講演は,まず 今年はインスリン発見100年だが,同時にインスリン受容体発見50年でもある,という話から始まって,インスリン研究に寄与した研究者の業績を紹介しました.

本ブログでも,この記事でKahn博士の業績の一つを紹介しましたが,

今回の講演の主題は,当然ながら インスリン抵抗性がなぜどのように発生するのか,とりわけ筋肉細胞におけるインスリン抵抗性につき,最新の成果も交えた詳細なものでした.

日本人に特有のインスリン分泌タイプへの言及があるかと期待したのですが,それはまったくありませんでした.

なお,インスリンとIGF-1(Insulin-like Growth Factor)とは,名前は似ていることは知っていました.しかし構造まで本当にそっくり,そしてそれらの受容体の構造も,まるで間違い探しクイズかと思う程 よく似ていることが博士の講演でよくわかりました.

受賞講演

Kahn博士の特別講演に続いて,学会賞(リリー賞,女性研究者賞,ハーゲドーン賞)の受賞講演が行われました.

特に印象深かったのは この講演でした.

リリー賞受賞講演(2)
ヒトの膵β細胞量増大による糖尿病治療を目指した基礎的研究

白川 純 群馬大学生体調節研究所

膵臓β細胞は増やすことができないのか,できるとしたらどういう方法があるのかを研究したものです.
注目されるのは,この研究を開始するきっかけとなったこの報告論文です.

(C) JCI

1型糖尿病発症後も50年以上生存している,いわゆる Joslin Medalistの人68人を調べたところ,膵臓のβ細胞は少ないながらも 存在していることが判明したのです.

ということは,残存しているβ細胞の機能を復活させることができれば,1型糖尿病を治療できる可能性があることになり,それが受賞研究を開始する動機になったとのことでした.

なお,この講演中に,

マウスとヒトでは膵島細胞の構造が,かなり違うことが示されていました.

Steiner Islets 2(3) 135 2010 より

ヒトや霊長類ではα細胞とβ細胞とが 膵島内でかなり混在していますが,マウス・兎・犬ではそれらがくっきりと『住み分けて』います.ここだけを見ても 動物実験結果をそのまま人間にスライドさせるのは危険だなと感じました

[4]に続く

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