第24・25回 日本病態栄養学会の感想[2] 管理栄養士はどうしているのか

My 1st 栄養指導

私が会社の産業医から『あんた,このままだと糖尿病だよ』と警告されて間もなくのことです.近所の大病院で,無料の『健康教室』が開かれていたので受けてみました.管理栄養士は 『バランスのよい食事,つまり食品交換表にしたがってバランスのとれた食事にしなさい』とのたまわれました.
実際,その頃 日本糖尿病学会に野次馬参加してみると,そこで学会発表されている症例報告はだいたいこういう感じでした.

第XX回 日本糖尿病学会 症例報告 O-nnn
【当院における栄養指導の実践とその効果】
XX県 YY市 県立ZZ病院
当院にMM年からNN年に入院した2型糖尿病患者 1,835名に,食品交換表に基づく 栄養指導・食事療法指導を行ったところ,6か月後には HbA1cが平均 0.5%改善した.

当時の栄養指導とは,

『正しい糖尿病食事療法』を解説した食品交換表を いかに患者に理解させ 忠実に実行させるか

これだけだったのです.

『糖質』は禁止用語でした

もちろん 糖質制限食ではどうなるか,などと言う発表は間違ってもありません, それどころか当時の学会会場では『糖質』という単語さえタブーだったのです. 『糖質制限』ではなく,『糖質』という言葉を口にするだけで糖質制限推進派だとみなされていました.許される言葉は『炭水化物』だけだったのです.

しかし 今では,糖質制限食をさすがに推奨することはないものの,糖尿病学会の症例報告などですら『患者が糖質制限食を行っている場合には..』などとごく普通に使われています.つまり,糖尿病患者には一定の割合で糖質制限を実行している人がいる,それ自体は事実であると認めて,それを前提としているわけです.現実から目をそむけることなどは不可能なのですから.

変化の兆し

2019年に発行された『糖尿病診療ガイドライン 2019』で,『糖尿病患者の食事療法は個別化されるべきである』(その方法は知らんけど)という原則が出された現在,では管理栄養士はどうしているのでしょうか.それがうかがえる講演を聞いてみました.

コントラバシー1 食品交換表を栄養指導に利用する是非

『糖尿病患者に栄養指導をする際に,食品交換表を使うのは,果たしていいことなのか悪いことなのか』というディベートです. かつて『食品交換表以外の糖尿病食事療法はありえない』としていた学会の姿勢はどこかに飛んでいったようです.

ディベートですから,是とする側/否とする側 それぞれに二人の先生が登壇されました.

  • 是である=栄養指導には食品交換表を使うべきである
    • 加藤内科クリニック 加藤則子
    • 虎の門病院 山本恭子
  • 否である=栄養指導には食品交換表を使うべきではない
    • 三重大医学部 和田啓子
    • 浜松医大 増田えり子

是側の意見は大要このようなものでした.

[是1]
食品交換表は 単にカロリー交換だけではない.食品の多様性など参考ツールとしての食品交換表の価値は 今でも色あせていない.
[是2]
ただし,実際の栄養指導では,交換表を含め 患者にわかりやすく実行しやすい説明資料を適宜工夫している.

一方 否側の主張はこうでした.

[否1]
食品交換表は 食材を集めて 自ら調理する場合だけを想定している. これでは 外食・中食の割合が高まった現代社会に適合していない.さらに,交替勤務・単身者など ライフスタイルは多様化しているのに,その現実も無視している.患者のライフスタイルにあった 分かりやすい資料が必要だ.
[否2]
ただし 交換表の一部(食品分類,わかりやすい写真解説)などは有用であり 今後も活用できる.

で,これを聴いたぞるばの個人的感想なのですが,どうもディベートという割には鮮明に対立しているようには見えませんでした.
というのも上記の[是2][否1],及び [是1][否2]とは,非常に似通っていたからです. つまり是側も否側も,その 話す順番を入れ替えればほとんど同じことを言っているように聞こえました.

  • 是側は,何が何でも食品交換表だけを使い続けるべきだとは主張しませんでした.
  • 一方 否側も,食品交換表は 金輪際使うべきではないとまでは主張しませんでした.

これがディベートらしくなかった原因でしょう.あいまいなのです.

上記の 是/非 各主張の後,さらに座長の関電病院 北谷直美先生は,(たまたま会場におられた)糖尿病学会の先生方を指名して意見を求めました.
会場からの意見もほぼ同様で,食品交換表を管理栄養士が自分のツールの一つとして使うのはよいとしても,それをすべての患者にまで強いるのは無理があるということでした.患者に食品交換表の内容を完全に理解させ,それを実行するよう指導することは 不可能だし有益でもない.患者を数字で縛るのは栄養指導ではないということです.

何を伝えたかったのか

このコントラバシーの結果が,日本糖尿病学会の決定に何かの影響を与えるというわけではありません. ただ,このやりとりを発信することで,

『もはや食品交換表は絶対基準であると考えないでください. 適宜アレンジして構わないのです. また患者に食品交換表を無理強いしないでください』

というメッセージを全国の管理栄養士に伝えたかったのではないでしょうか.

[3]に続く

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