第57回 【糖尿病学の進歩】の感想-6 GLP-1受容体作動薬の出身と図体

【この記事は 第57回 『糖尿病学の進歩』を聴講した しらねのぞるばの 手元メモを基にした感想です. 聞きまちがい/見まちがいによる不正確な点があるかもしれませんが,ご容赦願います】

GLP-1受容体作動薬(以下 GLP-1RA)は,GLP-1受容体を騙して,『わお,GLP-1がごっそり届いた』と勘違いさせる薬です.
したがって 本物のGLP-1と そっくりさんでなければいけません.
人間のGLP-1の本体は,30個ほどのアミノ酸がつながった小さな蛋白質であり,そのアミノ酸の配列もわかっています.

もちろん 本物のGLP-1と全く同じ化合物を合成して使えば,確実に受容体は受け入れてくれますが,同時にそれでは DPP-4に すぐにつかまって分解されてしまうということにもなります.したがって受容体が間違えるほど本物のGLP-1に似てはいるが,しかし構造が少し違う化学物質,これがGLP-1RAです.

現在 市販されているGLP-1RAは以下の通りです.

出身は砂漠です

上表には 5種 7商品の薬剤がありますが,すべてが同じというわけではなく,それぞれ個性には差があります.
下の図は各GLP-1RAのアミノ酸配列をまとめたもので,一番 上が ヒトのGLP-1で,それ以下がGLP-1RAです.
青いは,ヒトGLP-1と一致するアミノ酸です. ベージュのは,ヒトGLP-1と一致しないアミノ酸です.

こう並べてみると,リラグルチド,デュラグルチド,セマグルチドの3つは,ヒトのGLP-1を忠実に『真似て』いることがわかります. ごく一部のアミノ酸を別のものに変えていたり,置換基(=R)を付けたりしているのは,DPP-4によって分解されないようにしたり,あるいは1回の注射で長時間の効果を保たせるためです.

ところが,下の2つ=エキセナチドリキシセナチドは,どうみてもあまり本物のGLP-1には似ていません(アミノ酸配列の一致率は50%程度). それもそのはずで,これらはヒトのGLP-1からではなく,アメリカドクトカゲの唾液腺から発見されたものです.

(C) fujikiseki1606 さん

砂漠に住むアメリカドクトカゲが食べ物にありついた時は獲物を毒で麻痺させて丸のみします. つまり長期の絶食の後に,突然ドカ食いするのですが,この時 血糖値はピクリとも変化しません. それがこのアメリカドクトカゲのGLP=エキセナチド型ペプチド(exendin-4)のおかげなのです.

全然ヒトのGLP-1とは似ていませんが,これでも GLP-1受容体は 本物と間違えてくれるのです.モノマネ芸人の極意は『何もかもそっくりにまねする必要はない. ただ特徴的なところだけ真似ればよい』だそうですが,正にその通りです.

つまり,現在市販されているGLP-1RAには,ヒト由来のものと,アメリカドクトカゲ由来のものと 2種に大別されます.

図体が違う

実は上記のGLP-1RAの中で,デュラグルチドだけは他とまったく異なる化学構造をしています.それは図体(分子の大きさ)です.

前記の図ではGLP-1の『真似っこ』をしている部分だけを比較しましたが,分子全体を模式的に示すとこうなのです.

図で青い棒はGLP-1を真似ている部分です. デュラグルチド以外のGLP-1RAは,基本的には本物のGLP-1と同じようなサイズですが,デュラグルチドだけは 青い棒2本を更に大きな蛋白質でつないでいます.

もちろん どれであれ,膵臓β細胞上のGLP-1受容体は こころよく受け入れてくれるのですが,問題はこの記事で述べた 脳中枢への作用です.

デュラグルチド以外のGLP-1RAは本物と同じような姿かたちで同じような大きさ(図の右におおよその分子量 Mwを示しました)なのですが,デュラグルチドだけは分子量が一桁大きいのです. さすがにこれくらい大きいと 脳関門は通過できないだろうとみられています. だとすればこの記事に書いたような 脳の食欲中枢への作用はないだろう,つまり 体重減量効果が弱いのではないかということになります.

そこで,このシリーズのしめくくりとして,それぞれのGLP-1RAの投薬効果の特徴,つまり『個性の差』を見ていきます.

[続く]

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