ケトン体は『飢餓時だけに生成される非常エネルギー』なのか[2]

代謝が破綻しているという極端な状態で発生するケトアシドーシスの例を挙げて『ケトン体は危険だ』というのは,交通事故でグチャグチャになった車の写真を見せて『車は危険だ』というのと同じだと言うのが前回の記事でした.

ケトン体の断片的な情報だけではなく,総合的に解説した文献は日本には見当たりません.しかし 1月の日本病態栄養学会の『シンポジウム13 ケトン体の生理的意義を考える』の中で紹介された文献から,さらに引用を遡ったところ,すばらしいレビューを見つけました.

著者はこのパトリシア・プチャルスカ博士です.

ポーランド出身で現在ミネソタ大学の准教授です.そして博士がフロリダのSanford Burnham Prebys医学研究所 在籍中に 膨大な文献情報をまとめ上げて,この『ケトン体の百科事典』と呼んでもいいくらいのレビューを書き上げました.

件名に『燃料代謝・信号伝達・治療におけるケトン体の多面的な役割』とある通り,現在知られているケトン体のすべての生理作用を 実にたんねんに調べ上げたものです.これ以降にも ケトン体の文献は たくさんありますが,多くの文献では 筆頭にこのレビューを引用しています.オープンアクセスですので,誰でもこのレビューを読めます.ケトン体がどういうものなのか,このレビューを読んで すべてを知ることができました.ただ全文23頁,とても軽く読み流せるものではありません.

以下 このレビューを 不肖ぞるばが解読した結果をかいつまんでご紹介しますが,その前にこのレビューのキモの部分を著者は冒頭でこう総括しています.『ケトン体=悪者』という図式からみれば,すごいことを述べていることがわかります.

  • ケトン体代謝は、人体生理学的恒常性の中心の役割を果たしている.
  • このレビューでは、いかに ケトン体がさまざまな栄養状態で臓器と生物のパフォーマンスを最適化し、複数の臓器系の炎症と損傷から保護する個別の微調整代謝の役割を果たしているのかについて検討した.
  • ケトン体は伝統的に炭水化物制限にのみ参加する代謝基質と見なされてきたが,実際には ケトン体は 炭水化物が豊富な場合であっても 代謝および信号伝達体として重要であることがわかってきた.
  • ケトン体は,その心臓および肝臓における興味深い保護的役割から 肥満関連及び心血管疾患に治療手段を開くにとどまらず,神経系疾患に対する治療手段であること,更に癌に対しても将来なんらかの役割を果たせそうなことが期待される.
  • ケトン代謝と信号伝達について,古典的な考えと現代の観察結果とを調和させるべく検討を行った.

3番目にご注目願います.ケトン体は 何も飢餓時だけでなく,普通に生活・食事をしている場合でも重要な役割を果たしていると述べているのです.

[3]に続く

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