加齢と糖尿病[3] 擦り切れていくテロメア

加齢に伴い,もちろん 体内の各臓器の機能は低下していきます.その原因の一つに細胞の自己増殖能力が次第に減弱していく『テロメア長の短縮』があることが,前回記事の内容でした. そしてそれが高齢者の糖尿病発症の原因の一つのようです.

テロメアの役割

前回記事では.『テロメアは 磁気テープのリードテープのようなもの』と書きました.

正確には(先頭に配置する)リードテープというよりは,末尾に配置するエンドテープと呼ぶ方が正しいかもしれません.
その理由は以下の通りです.

細胞が分裂して増殖する時には,元の細胞の染色体対1組も2組にコピーされて,分裂した細胞が同じDNAを持つようになります.DNAは2本の核酸塩基鎖が,必ず A(アデニン)-T(チミン),G(グアニン)-C(シトシン)という組み合わせだけで対をなしているので,

それぞれの鎖において,DNA複製酵素(DNAポリメラーゼ)がDNA鎖自身を鋳型として,相棒と同じ配列のDNAを複製できます.

実に巧みな仕掛けです.これによりそれぞれのDNA鎖の完全な複製が可能になっています.
しかし,このコピーを続けていって,DNA鎖の最末端まで来た時,DNAポリメラーゼがハタと困惑します.

DNAポリメラーゼ自身も大きさを持っていますから,DNAの最後の方のコピーを行おうとしても,その作業場所がないのです.この理由から DNA鎖の複製は 末端の数十個はコピーされません[末端複製問題].

なお,最初の図で下の方の鎖(中段図中 ラギング鎖)の方のコピーはもう少し複雑ですが,ここでは割愛します.

もちろんそのために遺伝子情報が欠落してしまったら大変なことになります.
テロメアは正にそのためにあるのです. ここには遺伝情報は書かれていませんから,コピー未完了でも構わないからです. つまりテロメアは『捨てしろ』としての役目を果たしているわけです.
ただし 当然ですが コピー完了しなかった部分は,その分だけ長さが短く(約50塩基対ほど)なってしまいます.

以上のメカニズムにより,染色体の末尾に付属しているテロメアは,細胞が分裂・増殖するたびに,まるで擦り切れるようにその都度 短くなっていきます. もしも完全にテロメアがなくなってしまうと,それ以降は染色体まで短くなってしまいます.これは非常に危険なので,ある程度以上テロメアが短くなると,もはやその細胞は増殖を停止し[=細胞の老化],次いで 廃棄[=細胞死;アポトーシス]されます. これは人体の新陳代謝を促すもので,それ自体は正常なサイクル[★]です.通常人間の体細胞では,50~60回の分裂・増殖で細胞死を迎えるようです[ヘイフリック限界].

[★]癌細胞には この自然死サイクルが存在せず,無限に増殖を続けます.

加齢とテロメア長

そこで最初に戻って,『テロメア長短縮』とは,年齢を経るにしたがって,分裂したばかりの,つまり若い細胞であっても,このテロメアが最初から短くなっていくようです. するとその細胞の寿命は当然短いものです.これが『加齢によるβ細胞の機能低下』です.『糖尿病専門医 研修ガイドブック』に記載されていた(6)はそういう現象です.

[4]に続く

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