最新の糖尿病薬:イメグリミン[6]メトホルミンとイメグリミン-1

イメグリミンの薬効(Efficacy)

ここまでは,糖尿病新薬イメグリミンの動物実験で示された作用機序を見てきました.それでは イメグリミンの人間の糖尿病患者に対する薬効(Efficacy)は どれほどのものなのでしょうか?
ここで Efficacyという,あまり聞きなれない言葉を用いた点にご留意ください.ブログ別館のこの記事にも書きましたように;

『糖尿病治療:有効性と有効性』
薬の効き目を表すのに,英語の医学文献では EfficacyとEffectivenessという言葉が使われます.どちらも日本語では『有効性』と訳されてしまうので…

薬のEfficacyEffectivenessとは日本語ではあまり区別されずに『有効性』という意味で使われています.(実際 Googleでは どちらも『有効性』と翻訳されてしまいます)
しかし,Efficacyとは,理想的な条件で見出されたその薬の効果,これに対して Effectivenessとは実臨床で発揮された その薬の実力です.両者が一致していれば理想的ですが,実際には差が存在することもあります.

現時点でのイメグリミンは,まだ 販売されたばかりですから,実際に日本全国で処方・投薬されている実例は非常に少ないです.したがって,現在明らかになっているイメグリミンの効果は,開発元である 仏Poxel社が,販売承認に向けて行った第1相~第3相の治験のデータしかありません. これは 上記記事にも説明しましたように,対象患者を注意深く選定したうえで,長くても52週程度の投与実績からまとめられたものです. 当然重度の糖尿病患者や,重篤な合併症・腎機能・心疾患又はそのおそれのある人は,最初から除外されています. といっても,これは薬の効果をよく見せかけるためではなく,臨床評価に影響を与えるような因子(交絡因子)を排除し,かつ治験中の危険性を最小化するためには必須なのです.

以上のことを念頭に,イメグリミンの血糖値低下効果を見てみます.

第2相試験結果

タイトルにご注目願います.これは 仏Poxel社が,日本人の2型糖尿病患者を対象に,日本で行ったイメグリミンの第2相試験の結果報告です. 糖尿病に限らず,まったく新規の医薬が,世界で初めて日本国内で行われることは非常に稀有なケースです.

よほどマイナーな病気は別として,日本の製薬会社よりもはるかに巨大な世界のメガファーマーは,その新薬開発力も圧倒的ですから,ほとんどの新薬は 海外で治験・承認された後,かなりたってから日本で承認されるのがこれまでの通例でした. つまり新薬は欧米人のデータを基礎にしていたのです. しかし,このイメグリミンに関しては まず日本人のデータから始まっています.

第2相試験なので(第1相試験は,健常人を対象に基本的な安全性と薬効評価が主体なので割愛します),24週間と比較的短期で,かつ 適切な投与用量の把握が目的です. 対象は日本の2型糖尿病患者299名です. 過去3ヶ月以内に糖尿病経口薬やインスリンを使用していた人や,重度の腎機能低下/心疾患がある人は除外しています. 平均年齢は57~60歳,平均BMI~25の中高年男女で,中程度の2型糖尿病(HbA1c~8%程度, 空腹時血糖値~165程度)であり,日本の2型糖尿病の典型像といえるでしょう.

この人達をランダムに [プラセボ]/[500mg投与]/[1000mg投与]/[1500mg投与] (=投与は1日2回)の 4グループに分けて.24週間まで血糖値の変化や有害事象の有無を追跡しました.

HbA1cの変化はこの通りでした.

HbA1cが8%くらいの糖尿病ですから,プラセボ群,つまり 24週間にわたり 一切 薬を服用しなかった人は 徐々にHbA1cが悪化していきました. そこで プラセボ対比で,各投与群の24週後の効果を見るとこうなっています.

投与量が増えるほどHbA1c低下効果が大きかったことがわかります(=用量依存性).

なお,注目のインスリン分泌能ですが,プラセボ対比でこうなりました,

[原文 Table 2より作図]

これも用量依存的にHOMA-βが改善しました.イメグリミンは たしかにインスリン分泌能を改善するようです.

第3相試験結果

第3相試験では,イメグリミン 1000mgと単独投与と,他の経口糖尿病薬との併合投与の結果を調べています.

対象は やはり日本人の2型糖尿患者714人で,52週にわたる投与試験の結果です.

点線の 【HbA1c -0.46%低下】がイメグリミン単独投与の効果で,この点線より下にあれば 併用効果があったことになります.

ほとんどすべての併用薬剤でその効果が見られているのですが,唯一 GLP-1受容体作動薬だけは,むしろ効果が減弱しています. つまりイメグリミン単独投与よりも結果が悪いのです.メトホルミンとGLP-1受容体作動薬との併用療法の場合は,相性が悪いどころか,良好な結果が得られるので(ex. SUSTAIN-7 試験),これは予想外の結果です.

またあまり注目されていないようですが,α-グルコシダーゼ阻害薬との併用で,こんなに HbA1cが下がることも珍しいです.α-グルコシダーゼ阻害薬単体では,長期のHbA1c低下は大きくありませんし,それをメトホルミンと併用しても,やはりメトホルミン単独と それほど変わりません.


【以下は ぞるば個人の見解です. 文献情報ではありません】

イメグリミンは,メトホルミンと異なって,GLP-1受容体作動薬とは極端に相性が悪く,α-グルコシダーゼ阻害薬とは強い相乗効果を発揮する.

もしもこれが普遍的に起こるのであれば,メトホルミンとイメグリミンとは,膵臓・肝臓での作用は似ていても,膵臓外【たとえば腸管】での作用はかなり異なるのではないかと思いました.

では,非常に化学構造の似たメトホルミンとイメグリミンなのに,何がその差を生んでいるのでしょうか?

[7]に続く

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