第64回日本糖尿病学会の感想[8] HbA1cの測定誤差

HbA1c値の信頼性

以前のこのシリーズ記事で,たとえ病院の検査であっても 測定誤差やバラツキはあることを調べてみましたが,

今回の学会では,上記とは別の原因で HbA1c測定に誤差が発生する事例が報告されていました.

くわしい方は,このタイトルだけでわかると思います.

病院で検査のために採血すると,その血液は採血注射器からとりあえず試験管[=採血管]に移されます. その採血管には何種類もあることをご存じでしょうか?
血液全部(全血)をそのままで分析する必要があるものは,予め血液凝固防止剤(EDTAやヘパリン,フッ化ナトリウムなど)が採血管の底に規定量入れられています.

逆にこれらが添加されていない採血管では,30分ほど静置しておくと,血液が自然に凝固して上澄み(血清;serum )と沈殿に分かれます. 凝固防止された全血を遠心分離機にかけた場合も,上澄みと沈殿にきれいに分かれますが,この場合の上澄みは血漿(plasma)です.

どちらも血液の液体成分なので,みかけは似ていますが,検査項目によって血清血漿のどちらを用いるかが決められています. ここを取り違えると正確な値が出ません.

血糖値やHbA1cを測定する場合は,血漿 plasma が用いられます. したがって採血された血液は凝固防止剤入りの採血管に移されますが,この時 あらかじめ管内に添加されていた凝固防止剤を血液によく溶かすために 軽く振ります.採決後に看護師さんが 採血管を何回か上下さかさまにしているのはこの操作です.

しかし,この操作(振盪)をあまり激しくやりすぎると,血液中の赤血球が破壊され(=溶血),こうなった検体でHbA1cを測定すると,特に酵素法[★]の測定器では 真の値よりも相当低く出てしまうという報告です.ただし この報告では,実験が目的なので機械式の振盪機にかけていますから,実際の病院検査において,必ずいつもこれが起こるとは限りません.

[★] HbA1cの測定法は,実は1種類ではなく,HPLC法,免疫法,酵素法などがありますが(最近は液体キャピラリー法も),一般に HPLC法がもっとも正確とされ,基準になっています. しかし,病院から検査だけを請け負う委託検査専門機関では,できるだけ安価・迅速な方法で行います. 免疫法や酵素法は HPLC法よりも結果を速く出せるのでよく採用されています.

上記の以前の記事では,『違う病院で検査された場合は,必ずしも同じ値になるとは限らない』と書きましたが,この報告によれば,同じ病院で検査していたとしても 誤差が発生する可能性があるということになります.
したがって HbA1c値のわずかな変動には あまり振り回されないようにしましょう.

[9]に続く

コメント

  1. かかか より:

    いつものクリニックでそこの機械でHbA1cを計測して、2週間後たまたま別のクリニックでも肝機能やコレステロールなどと一緒に検査しました。そこは外注でした。0.5も違っていました。いつものクリニックは一定しています。どちらが正しいのか…

    • しらねのぞるば より:

      この記事にも書きましたように,私は HbA1cの測定精度はそれほど高くないと思っています.
      ある時 HbA1cが5.5%だと言われたら,それは 5.5±0.3% ぐらいではないかと思います. しかもそれは [90%の確率で 5.5±0.3]です.

      かかか様のいつものクリニックは再現性は高いですが,偏差は不明です.一方 別のクリニックは,一度の測定だけではどちらも不明です. 機会があれば,測定器のメーカー名か,測定法を尋ねておくといいですね.クリニックによってはそういう質問を嫌がるかもしれませんが.
      理想的にはHPLC法での測定値がわかればいいのですが,大病院であっても 検査業者が院内に常駐しているケース(=ブランチラボ)もあるので,必ずしも大病院=HPLC法とは限らないようです.