第66回日本糖尿病学会の感想[20] HbA1cの値がリブレと病院検査で一致しない

【この記事は 第66回 日本糖尿病学会年次学術集会を聴講した しらねのぞるばの 手元メモを基にした感想です. 聞きまちがい/見まちがいによる不正確な点があるかもしれませんが,ご容赦願います】

リブレを使っている方の『あるある』です.

リブレで見ていると最近 血糖値の調子がすこぶるよくて, これなら前回通院時よりは かなりHbA1cが下がったはずだと,期待に胸をふくらませてクリニックに行ったら;

主治医:『HbA1cが少し上がりましたね(又は 前回と変わりませんね)』

(C) せのきた さん

どうしてこんなことが起こるのでしょうか?

それを解明すべく,こういう報告がありました.

2021年11月~2022年9月に北里大学病院でリブレを使用した糖尿病患者68人の,リブレが表示した『推定A1c(GMI)』と,実測したHbA1cとを比較検討した報告です.なお,実測HbA1cは,HbA1cの基準測定法とされるHPLC法で測定しています.

これらの比較結果では,リブレの『推定A1c(GMI)』の方が病院実測値より低く出ていた,あるいは逆に高く出ていた,両方のパターンがありました.

極端な例では,リブレでは 6.1%だったのに実測HbA1cは 10.5%逆にリブレでは 8.7%だったのに実測HbA1cは 6.2%というものまでありました.

この報告では,リブレの『推定A1c(GMI)』と,HbA1cの実測値とは相関係数が 0.7~0.8と高いことが示されました. しかしながら両者がよく一致していたというわけではなく,両者の差の絶対値(=ギャップ)が0.5%を超えるケースは,全体の50%以上もあり,これらのケースの特徴を分析しています.それによれば,短期間で血糖値変動の大きかった人はギャップも大きくなる傾向があると報告しています.

なお,ここで発表者は リブレの『推定A1c』という言葉は用いず,GMI(Glucose Management Indicator:血糖管理指標)という言葉を用いていました. これは最近のモデルのリブレでは『推定A1c』という言葉は廃止して,GMIと呼んでいるからです.

相関性は高いのに,数字が0.5%以上も違うことの方が多い

これはどういうことでしょうか?

GMIとは

GMIはこの文献で説明されています.

(C) Diabetes Care 2018

リブレでみる限りでは前回よりHbA1cは良くなったはずなのに,病院で検査すると悪化していた,あるいはその逆だった.こういうクレームはリブレ登場以来,欧米でもさんざん寄せられました.
そこで,それまでの Estimated-HbA1c(又は eA1c. 日本語版では『推定A1c』)という言葉は,あたかも実際のHbA1cそのものであると誤解を生む,ということから GMI(Glucose Management Indicator:血糖管理指標)という,アバウトな名称に変更しています.
それは,リブレなどのCGMに記録された平均血糖値と,真のHbA1c値にはこのように高い相関性はあるのですが;

(C) Diabetes Care 2018

両者の間にはバラツキがあり,決して一直線上にのっていないことに注目してください.

たとえば,前月にこういうデータ(赤●)だった人が;

翌月 こうなったとしたら(青●);

この人は,病院の測定では『HbA1cが上がった』,CGMの表示では『HbA1cが下がった』となるのです.

つまり この記事にも書いたように;

『AとBとに相関性がある』ということは(相関係数=1.0でない限り) ,必ずしも『AからBを換算できる』ことを意味しません.だから 『リブレで算出されたHbA1c』『病院検査でのHbA1c』なのです.

ですので,現在欧米で販売されているリブレでは HbA1cと混同されないように,GMIという言葉を用いるようにしました.

しかし現在日本で使われているリブレは,ほとんどが初期モデルですから,今でも『推定A1c』という言葉がメニューに出るのでしょう.

あなたの主治医に『先生,リブレで推定したHbA1cとどうしてこんなに違うのですか』と尋ねても,『うん,まあ誤差があるからね ムニャムニャ』とはぐらかされているのではないでしょうか? しかし,医師もリブレの精度についてはよくわかっているのです.

『相関している』は,HbA1cの上昇/下降の傾向まで一致することを意味しません.

統計を理解している人には当然のことです.しかし,これを正しく説明できる医師がどれだけいるでしょうか? またその説明を理解できる患者がどれだけいるでしょうか?

『わはは そんなの,一致するわけないっしょっ』と言ったら 患者からスリッパで往復ビンタを食らうかもしれません.

(C) はぎゆう さん

口が裂けても言えないのです.

[続く]

コメント

  1. 西村典彦 より:

    私の感覚では相関0.7〜0.8はほとんど相関していないと言う感覚です。少なくとも0.9以上でないと使い物にならないと言うのが学生時代に学んだ統計学の知識ですが、医療系の統計値では酷いものは0.6でも相関があると考察しているものまであります。それを元にこの薬は効くとか言われても何だかなぁと思いますが、医学系の人たちはこんなので本当に「効く」って実感できるんでしょうかね。

    • しらねのぞるば より:

      工学では完全解が得られる系を扱います.すべてのパラメータとそれらの相互関係は既知です.橋梁設計が典型ですね.

      一方 医学では,数万もの生化学反応が関与する(+それ以外にも未知のものもある)複雑系ですから,どうしてもズバリの解は得られませんね.