【続】肝機能指標と糖尿病[3]肝機能は糖尿病を予測するか

久山町研究

久山町は福岡市の東に隣接する 人口8,000人ほどの農村です.小さな町ですが,年齢別人口構成がほぼ日本全国のそれと一致していることから,『日本の縮図』でもあります.そして九州大学が1961年以来 この町で継続している疫学研究の蓄積データは,世界でも第一級の信頼性と評価されています.その理由は,原則として死亡者を全員 剖検して死因を調査していること,そして5年ごとに40歳以上の全住民を対象にした詳細な健康診断を行っていることです.

久山町研究はもともとは,脳卒中死の解明から始まったのですが,そこから発展して 高血圧と脳・心疾患の因果関係,更に『生活習慣病』全体へと研究を進めてきました.その一環として,2007年に『肝機能検査の数値は糖尿病の発症予測因子として使えるのではないか』という提案が論文発表されました.

研究のデザイン

この論文では,1988年時点で 40~79歳の 久山町住民全員(3,227人)から,既に糖尿病であった人などを除外して,データが完備している 1,804人(男性 719人;女性 1085人)を対象にしています.初期時点のデータは下記の通りでした.

原文の数値は ほとんどがmol表示だったので,病院でよく使われている単位に変換しています.

GGT(γ-GTP),ALT,AST の肝機能指標では,一部に基準値を越える人がいましたが,ほとんどの人は正常範囲におさまっていました.

この方々を平均9年間追跡し,期間中に糖尿病を発症[★]するかどうかを調べた結果が この報告論文です.

[★]『糖尿病を発症』=空腹時血糖値が126mg/dl以上になった時,又は 糖尿病薬の服薬を開始すれば 糖尿病発症とカウントする.

追跡結果

追跡期間中に,1,804人中,135人が糖尿病になりました.

そこで 以上のデータを基にして,初期の肝機能指標(ALT,AST,GGT[γ-GPT])と,糖尿病の発症率との間には関係があるのか,あるとすれば どれくらいの数値から発症率が高くなるのかを調べました.

[4]に続く

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