インスリン抵抗性を考えてみました[9] 指標は換算値ではありません

HOMA=HOmeostasis Model Assessment(恒常性モデル評価)は,クランプ試験のようにインスリン抵抗性・インスリン分泌能を実測するわけでもないし,間接測定法ですらありません.
HOMAは,クランプ試験と『よく相関する指標』なのです.

『よく相関する』とは

『よく相関する』とはどういうことなのでしょうか?

Aのデータと,Bのデータとがあったとします.本当はAを知りたいのだが,測定するのが難しいor高価であるなどの理由で簡単には得られない場合,もっと簡単に得られるBというデータからAの値を推測できれば便利です. この場合,Bの値からどれくらい正確にAを推定できるかが相関係数で表されます.

相関係数=1.0の場合(上段 最右),常に A=Bですから,横軸のBの値を知れば,縦軸のAの値に正確に『換算』できます.
一方相関係数=0.7のグラフでは(上段 中),横軸のAと縦軸のBはよく『相関』しています.しかし,だからといってBの値をAに換算できるほどではありません. すべての点が線上にのっているわけではなく,多少バラツキがあるからです.Bの値から,おおよそのAの値は推測できますが,B=5がすなわち A=5とは限らず,A=3~8ぐらいのどこかだろうということになります.

これが相関係数=0.5となると(上段 最左),もはや占いの領域です.

そして 相関係数=0だったら(中段) ABとは何の関係もないということになります.

相関係数は マイナスの場合もありえます(下段).Bが大きくなるほどAが小さくなる(=負の相関)ので,これはこれで推測に使えます. もちろん相関係数が -1.0だったら,完全に換算に使えます.

Bの値がこれこれだから,Aの値は 多分これくらい』と,この『これくらい』が,正に『相関している指標』の意味です.目安にすぎないのです.

HOMAの相関成績は?

HOMAは,クランプ試験と『よく相関する指標』と言われています.
では,その相関の良さ(相関係数)はどれくらいなのでしょうか.

HOMAと,クランプ試験との相関性を検討した報告は多数発表されています.
その中で,もっとも相関性成績が優秀であったのがこの文献です.

HOMAはクランプ試験をよく反映する

その結果はこの通り(〇=健常者; ●=2型糖尿病)

縦軸はHOMA-IRの対数表示,横軸は 実際にクランプ試験で測定した ブドウ糖処理能力の実測値です.相関係数=0.82ですから,この種のデータとしては すばらしく高い相関性です.HOMA-IRが高くなるにつれて(縦軸;上へ),糖処理能力は低下(横軸;左へ)していきます.
直線から大きく離れた点は少ないので,p値も <0.001と優秀です.
しかし,これほど『よく相関』していても,やはり個人差によりこれくらいのバラツキはあるのです,

ところでこの記事 に書いたように,『HbA1cは平均血糖値と相関するが,平均血糖値そのものではない』ことを思い出してください
HbA1cと真の平均血糖値との誤差は,個人差が非常に大きいものでした.

同様に,HOMA-IRはインスリン抵抗性の目安にはなっても,インスリン抵抗性そのものを表しません.
AさんのHOMA-IRが3.0で,BさんのHOMA-IRが3.5だからと言って,Bさんの方がインスリン抵抗性が大きいとは断言できません.理由は上のグラフの通りです.
ただし個人差要因を考えなくていい場合,つまり 同一人で HOMA-IR=3.0から,1年後に 3.5になったとしたら,インスリン抵抗性は 悪化している可能性大です.

[10]に続く

コメント

  1. 西村 典彦 より:

    私は、学生時代に相関係数が少なくとも0.8程度なければ相関があるとは言えないと習った記憶があります。
    しかし、医学関連のデータを見る限り、0.5や0.6でも緩い相関があると判断されているものをしばしば見かけます。分野によってその扱いは違うのかもしれません。
    もっとも、それくらいのものでも相関があると言わなければ、薬の効果などはほとんど治療効果が認められないものになってしまうでしょう。

    • しらねのぞるば より:

      >相関係数が少なくとも0.8程度なければ相関があるとは言えない
      私もそう習いました.

      >それくらいのものでも相関があると言わなければ
      論文で『弱いながらも相関がみられた』とあるので,グラフをみたら R=0.38 でのけぞったことがありますw